【屋根を愛でる】第1回|雪の柴垣町の屋根に魂を持っていかれた話

屋根の上にいるのは、だれ

気多大社がすきなみなさまにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか。いや、まだ気多大社を知らないみなさまにおかれましても、いかがお過ごしでしょうか。わたくし多神和です。どうもどうも。鬼瓦を愛でる旅、はじめます。

富山、越前、京都、伊勢。旅先でふと見上げると、屋根の上に何かいる。ずっとそこにいる。雨の日も風の日も、誰に気づかれることもなく、ずっとそこにいる。

この連載は、そういう「屋根の上のなにか」をひたすら愛でていくものです。記念すべき第1回は、石川県羽咋市柴垣町。2022年1月23日。もうずいぶん昔のお話です。

気多大社に行ったはずでした

気多大社といえば、大国主命(おおくにぬしのみこと)を御祭神として祀る、縁結びで名高い神社。能登半島の入り口あたりに位置していて、境内の奥には立入禁止の「入らずの森」が広がっている、なんというか、独特の静けさをもった場所です。

わたくし、この神社がとにかく好きで、なんとなく海沿いの道を走っていると吸い込まれるように来てしまう。この日も雪の中をそういうつもりで来ていたわけです。そういうつもりで、いたわけです。

ところが。

柴垣町に入ったところで、屋根が目に入った。

大黒さんが、屋根の上にいた

国立能登青少年交流の家体育館の近くのお宅の屋根です。気多大社の近くにある施設なのですが、その棟の上に、真っ黒な大黒さんがどっしりと鎮座しておりました。

大黒さんですよ。七福神のあの、打ち出の小槌を持ってにこにこしているあの方。

福の神として広く知られているあの大黒さんが、白い雪の中で真っ黒に浮かび上がって、屋根の上から町を見下ろしているわけです。

鬼瓦というのは本来、魔除けのために屋根の上に置かれる装飾瓦のことを指しているのですが、大黒さんが鬼かどうかと問われるとかなり首をかしげざるを得ない。

魔除けよりも招福を選んだ、ということでしょうか。その気持ちわかります。

鬼ではないかみさまも、こうして屋根の上にはいる。この懐の深さが、日本の屋根文化の素晴らしさだとわたくしは思っていて、もうほんとうに、ふおお!すき!!という気持ち。

そのまま気多大社はわきに置いて、家の前で鬼瓦を撮っていました。

何をしているのでしょう。でも、しょうがない。大黒さんが呼んでいた。それだけのこと。

しかも、恵比寿さんもいた

大黒さんに気を取られていたら、もう一軒の屋根の頂点に、今度は恵比寿さんがいた。

鯛です。でっかい鯛を抱えて、にこにこしている。

大黒さんと恵比寿さんは、七福神の中でも特に縁が深いペアとして知られている。大黒=大国主命(だいこくさま)、恵比寿=事代主命(ことしろぬしのみこと)は、親子という説まである。大国主命を御祭神とする気多大社のすぐそばで、大黒と恵比寿が屋根の上からにこにこしている。

そして今回は対になってた。どちらも笑っている。それだけで十分な気がして、しばらくそのまま立っていた。

手裏剣みたいな瓦の名前は「雪割瓦」

もうひとつの発見が、雪割瓦。

棟(むね)に沿って等間隔に並んでいる、手裏剣のような、星形のような、不思議な形をした瓦のこと。

北陸地方ならではの特殊な瓦らしく、積もった雪をその形で割り、自然に落ちやすくするための仕組みが、あの星形の中に込められているというわけです。なんですかそれは。かわいい。かわいくて実用的。

機能美というのはこういうことを指して言うのかもしれないし、なんかまあ、雪国の人が長い年月をかけてこつこつと工夫してきたものが、屋根の棟の上にひっそりと等間隔で並んでいるという事実が、じわじわとくる。びぇえええ!!

あらやだ、気多大社の話はどこへいったのでしょう。ちゃんとお参りはしましたよ。もちろん。

雪割は装飾なんですって!

あとからわたくしの親方、じゅんさんに聞いたら、雪割瓦というのはもともと装飾瓦なんだそうだ。実用と祈りが、最初から一緒になっている。そういうものが、屋根の上にはある。

雨樋に、ねこがいた

最後にもうひとつ。雨樋の壁面取り付け部分に、丸い彫刻のついた平たい瓦が貼り付けてあるのを見つけた。ピントが合ってないのはお気になさらないでいただきたい。

これは「ねこ」と呼ばれる鬼瓦の一種らしい。ひらぺったくそこにある。鬼瓦でも神様でもなく、ねこ。名前がいい。でも、模様は鶴亀だったりする。ねこだけどねこじゃない。

かみさまは、一番高いところにいる

でもこの日の主役は、どうやら屋根の上の大黒さんだったようです。大国主命とご縁のある柴垣町に、大黒さんの鬼瓦がある。

大黒=大国(だいこく)=大国主、という習合の流れがこんなところにも息づいているのかもしれないし、単純に福の神に来てもらいたいという願いがこの屋根に込められているのかもしれない。

どちらにしても、かみさまが一番高いところから町を見守っているという構図は、美しいですよね。実は鬼瓦がかみさまっていうのは意外とあるんです。

これが、鬼瓦を愛でる旅の第一歩。

知らない建物の屋根に魂を持っていかれたことがみなさまにはありますか。

撮影:2022年1月23日 石川県羽咋市柴垣町

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ABOUT US
ほりたみわ/多神和(たみわ)
多神和と書いて、たみわ。 一人であり、たくさんであり、かみさまたちの和を映す存在。 イラスト・漫画・張子・熊手・Reboot™・神ノ貌など、祈りと観察をもとに表現を続ける多層的クリエイター。 かみさまや犬、無機物とも会話しながら、目に見えないものを形にしている。 Reboot™では、自責の迷路から抜け出すナビゲーター。