はるじが肉体の衣を脱いじゃった
はるじと一緒に生きるって決めて甲府を出たのが2018年6月17日。あれからちょうど2年の夜中の出来事。
17日夜中に激痛
17日の日付が変わる少し前に、お腹がすごく痛みだし、救急車で近くの中央病院へ。ここは最初に癌ですよって宣告された病院。
とにかく痛みがひどくて、痛み止めを何本も注射してもらったり座薬も入れてもらうけど効くのは本当に数分。朝まで痛みは続き、医療用の麻薬が使われてからも痛みが治ることはなく。
朝になってからCTと採血。検査の結果、腸のどこかに穴があいてそこからガスが漏れたりして痛いんじゃないかと。食べたりしないほうがいいですよって言われたけど、それ以前に痛みがひどくて食べれず。
フルーツは食べたかったんだけど
とはいえ、はるじはフルーツ食べたかったみたい。
その日八重ちゃんはお店に行ってて、閉店後そのままお店に泊まり、朝になったらわれわれがおひさま食べついでに八重ちゃんをお迎えに行く予定でした。
なので、お店からスーパー経由でフルーツ買って病院にきてもらいたいってはるじが言うので朝になって連絡。
そしたらヒデ(はるじの弟さん)が朝早い時間に八重ちゃんをお迎えに来てくれたらしく、八重ちゃんはすでにおうち。なので、おうちにあったメロンとリンゴを持ってきてもらうことに。
持ってきてもらったものの、やっぱり痛くて食べることもできず。
死を待つより生きることを選ぶ
朝、お医者さんが話をしてくれて「今できることは痛みを和らげることだけです」と言って、医療用の麻薬に加えて抗生剤と電解質の点滴をすることに。
はるじは痛みを和らげて身体が弱って死ぬのを待つくらいなら、痛みと向き合ってでも生きることを選ぶと決めて、退院を決意。
お医者さんもダメとも言わず、痛み止めの使い方を一応説明してくれて退院。ヒデにおうちまで送ってもらう。
お昼頃に無事帰宅するも…
痛み止めが効き始めたのか、おうちに戻ってこれたことで安心したのか、痛みもなく眠れるように。とはいえ、二階のふたりの部屋までは戻れないので一階のお部屋で休む。
起き上がると呼吸がしんどそうだけど、寝ている時は比較的落ち着いてるので、わたくしも隣ではるじを見ながらうとうと。
でも、病院から戻ってからもずっとはるじの手足は冷たいまま。文子さんに送っていただいたPDPドームで温めながら寝る。
15時過ぎ、トイレに行くことに。立ち上がる時、楽しい未来を思い描くと力が出るというのを思い出して、「ふたりでスノボ!」という掛け声で意外とあっさり立ち上がる。
そのままあちこちつかまりながらトイレまで歩いて、トイレのドアを開けて足を一歩出した瞬間、はるじは白目をむいてひっくり返りそうに。ここんところのわたくしもゴリラ化してるのが役に立ったみたいではるじが倒れるのはギリギリ防げた。ナイスゴリラ。
医療用の麻薬の副作用でこういうことが起きるよということは聞いていたけど、一本打っただけでこんなになるとは。そういう意味では痛み止めとしても効いていたのかな。
でもこれ絶対正常な状態じゃないよね。そりゃはるじは帰るって言うよね。前回病院でもらった痛み止めと睡眠薬も飲まないことを選ぶくらいだし。
そんなこんなでトイレは諦めて、おふとんに戻って寝ることにしたものの、意識は朦朧としてたので戻るのも大変。何度も何度もはるじを呼びかけて、意識が戻った瞬間に「ふたりでスノボ!」のかけ声で立ち上がる。
「ふたりでスノボどこ行く?どこが楽しかった?」って聞いてふたり同時に「八方!」と答えてふたりで笑った。
そして、どうにかこうにかおふとんに。
八重ちゃんいってらっしゃい
17時半頃に八重ちゃんはお店へ行くということで、ヒデがお迎えに来てくれて、はるじは八重ちゃんとヒデにいってらっしゃいを。その後、すっと眠りかけてまた起きたから「さっきヒデが来たの覚えてる?」って聞いたら「うん、覚えてる」ってきちんと答えてくれた。
ところが、八重ちゃんはお財布が行方不明らしく。お店に忘れてきたかもってことで、確認したけど見つからず。おうちをもう一回探すということで戻ってくることに。
はるじの魂が抜ける瞬間
そしてその頃またはるじは眠りに。一緒にうとうとしつつ、はるじを眺めてたら、なんか一瞬違う呼吸が。えっ!?と思ったらその後呼吸は止まって、胸に触れたら心臓も止まってた。
そしたらそのタイミングで八重ちゃんとヒデが戻ってきたので、あわててふたりをはるじのもとに。3人でひたすらはるじを呼ぶも反応はなく。
はるじは延命とか蘇生を望んでなかったけど、もしかしたら息を吹き返すかもしれないし…と、救急車を呼ぶことに。
でもそんな雪の結晶よりもはかない希望はあっという間に溶けて、何をされても何も起こらないはるじ。LUCASという心臓マッサージの機器で激しく動くだけのはるじと救急車へ。呼吸器もうまくつけられないくらい硬くなり始めてたらしい。
今思うとあの呼吸は魂が抜ける瞬間だったのかな。
18:59死亡
病院に着いたところでもう何もすることはなく。いろいろ確認して亡くなってますと18:59に言われただけ。
「一緒に身体きれいにしてあげますか?」って聞かれて、もうぬけがらになっちゃったはるじの身体をきれいにしてあげる意味すらわかんないほどにこっちの魂も抜けかけてた。これまでがんばってきたはるじの身体を拭いてあげるという、お互いに最高の喜びの瞬間だというのに。
ただ、すごく穏やかな顔をしていたのがとても印象的で、思わず写真を撮らずにはいられず撮らせてもらう。
そこには解脱しちゃったんだろうなっていうこの上なく美しい顔のはるじ。
余命無限大ってそういうこと?
そしてはるじは肉体の衣を脱いだ途端、嘘みたいに右側にべったりとくっついてる。物理的なものがなくなったおかげで右頬にはるじの左頬がぴったりくっついてる感じ。
でも、これが気のせいじゃないっていうのはこれまでの2年間はるじがずっと教えてくれた。
初めて逢ってふたりで行った能登の時からずっと。
自分が観えている世界を信じられないわたくしに、それを信じられるような、信じるしかないような一言をはるじはいつもくれてた。
だから、このぴったりくっついているはるじは確実にいる。だって、においもしてるくらい。感触すらあるイキオイ。
はるじは「ずっといつも一緒にいたい」って本当にいつでも言ってたから、そうやって望みを叶えちゃったんだろうなって思った。
そりゃ肉体の衣脱いじゃったら余命無限大だよ。永遠だもの。そしてこんなにも近くにいるし。
なんだ悲しくないじゃん。
ただ、身体がなくなっちゃった分「ふたり」で出来なくなったこともいっぱいあるからその悲しみはやっぱりあって、それなりに泣いたりもしてみるんだけど、結局ものすごい不思議な安らぎのような感覚に包まれる。
はるじがここにいるんだなあって。
かたわれがひとつになった。
余命無限大。