結局なんだったんだ……
1月が終わる日に友達と呼ぶのかどうかすら謎の関係な彼から連絡が来た。
明日いってもいい、足はいんのだちに、富山からだせといった
……全く意味がわからない。その後も少しやり取りをしたものの相変わらず意味不明だったので、結局電話で話をした。
彼のことは「れっず」と呼んでいて、15年ほど前に人生を棒に振るほどのめり込んだ「信長の野望オンライン」で知り合った。
腐れ縁とも友達とも呼べないれっずから話を聞いてわかったのは「明日富山に行く」ということだった。
愛しのハゲ(以下ハゲ)ともなんとなく交流もあったので、3人で富山をうろうろすることになった。どこに行くのか何をするのかは未定。何しに来るんだろう。
どうしてこうなった
バタバタと電車と夜行バスを乗り継いで到着したれっずを拾い、話を聞くと何やら電車に乗りたいということだった。
ダブルデッカーというものらしく。不定期で運行してるらしいけど、ちょうど地鉄富山駅に到着してそのまま回送されるらしい。
れっずを地鉄の富山駅に送り届けてバイバイするはずが、珍しい車輌の写真だけでも……という話でれっずに切符まで買われたのでホーム内へ。
写真撮ってバイバイするはずが、駐車場代と交通費出すから宇奈月まで行こうと言われたので、据え膳食わぬは……というわけで電車に乗り込んだ。
ハゲはやさしさからなのか、乗りたかったのか、れっずの提案に前向きだった。
れっずを見送ったら車に戻るはずが……。
いつも持ち歩いているカバンを全部車に置いたまま改札をくぐる。充電池も手帳もiPad miniも全部カバンの中。
どうしてこうなった。半ばヤケクソせっかくなので全乗っかりで行く。もう知らん。
カメラとスマホと財布しか持たないままの電車旅が始まった。
車輌より看板
富山県に来て3年半。電車に一度も乗ったことがなかった。このまま乗らない人生も面白いかもしれないなんて思っていたのに。
電車に興奮するれっずを横目で見ながらわたくし看板に夢中。
こんなの並んでるなんてずるい。最高じゃん。
何もかもがハートを鷲掴みにしてくる。ずるい。ひどい。
あぁ、この使用感。美しすぎる。こんな楽しい瞬間を与えてくれたれっずのこととかどうでもいい。れっず万歳。
車中の酔いどれっず
旅は祭祀のようなもので、道中は人それぞれの儀式のようなものがある。
お気に入りの本を数冊持って行って車中で読んだり、ノートを持って行って心の中にあるものを書き出してみたり。あるいは手ぶらで行って景色を見ながら自分の奥深くにある思いを引っ張り出してみたり。
れっずは駅ビルでワンカップとさきイカを購入していた。これがれっずの儀式の供物。それをポケットにしまい込み、電車に乗り込み、付近の乗客がいない場所に着席し、開封。
れっずはボックス席に一人で座り、景色を眺めながら飲んだり食べたりしていた。
見慣れた見慣れない景色
いつも見ている景色。美しい連峰と街並み。車の中からだったり、屋根の上からだったり。それが今日は電車の中から。富山に来てから初めての景色だった。
上市までのんびり揺られた頃、ハゲが尿意をもよおしたのもあって、れっずが途中下車したいと言い出して降りることに。
下車ついでに車内で車掌さんに教えてもらったフリーパスを購入。れっずが買ってくれた(と書けと言われた)。
そして次の電車が来るまでの間、れっずは近くのコンビニでまた酒とつまみをカゴに入れていた。ちなみにれっずのコンビニでの買い物はわたくしが支払ったが、れっずが買ってくれたフリーパスより高くついた。
電車を待つ間もれっずの電車話は止まらなかった。聞いてもわからないので二人を放置してよく来る上市の全然知らない景色を眺めていた。
電車の車窓から見える景色の美しさにうっとりしながら揺られていたら、電車が進むにしたがって朽ちかけたホームがいくつも目に飛び込んできた。
そこに暮らす人たちが降りていくのを眺めながら、同じ富山県内でありながら、どこか遠くへ来てしまったような気持ちになった。
宇奈月まで来たものの…
同じ富山県とはいえ、小矢部と宇奈月じゃだいぶあっちとこっち。遠くへ来てしまった「ような」ではなく、遠くに来てしまっている。ちょっとそこまでの装備で。
富山からですらこの金額。4桁の数字がずらりと並んでいる。フリーパス万歳。
れっずが宇奈月に来たらやりたいことがあると言って、走り回っていた。コンビニでタオルを買い、当たり前のように酒とつまみも一緒に買っていた。
どうやらこの駅の足湯に入りたかったらしい。いくら冬の宇奈月でも他に見所はありそうな気もするけど……れっずはわざわざ立川からこの宇奈月まで足湯のために来たのか。
この後ご飯どうしようか、温泉は……なんて話をしていたら、れっずに電話がかかってきて慌てて東京に戻ることに。連絡もしないまま数日ぶらぶらしてたらしく、呼び戻されていた。
幸か不幸かここから先の何も予定がなかったので、急な帰宅要請にもあっさり応じることが出来、旅は急に終わることに。
バイバイするはずが……
電車が来るまでの時間、駅前にあったチーズケーキを食べた。(この日は久しぶりに精製された糖を摂取したおかげで夜血糖値が下がってしんだ)
電車はれっずがどうやって立川まで帰ろうかと考えている間に富山駅に着いた。
これでやっとバイバイかと思いきや、駅ビルのお魚が泳いでいる店で立ち止まり「お願い!これ食べたい!」と最初で最後みたいなイキオイで甘えてきた。
活きのいいアオリイカのお造りをハゲとれっずの二人で食べ、ここでも日本酒を飲み、れっずはハゲに5000円出させて終了。
そして「新幹線の切符を買ったら駐車場代の金がなくなった」と言いながらますの寿司を買って、市電の写真を撮りに行ったままどこかへ消えていった。たぶんその後新幹線で帰ったんだろう。
バイバイするはずが……。最初から最後まで「バイバイするはず」の旅だった。
オチも何もない旅だった。れっずにオチなんてあるわけがない。「宇奈月でうなずいて欲しい」とかおもしろくもなんともないことを言っていた。
人生たまにはこんな行き当たりばっ旅もいいけど、宇奈月ではうなずかん。