職人の町で
或るきもちのいい秋晴れの日であった。僕は、友人と一緒に富山の古い街を歩いていた。
そこは井波町と言って、全国でも有数の木彫で知られるところである。大通りの突き当りには大きな一向宗の寺院があって、そもこの街の木彫りの歴史というのは、この寺の建立からはじまっているということである。
僕がここに来た理由
出不精の僕がこの町まで車を走らせて来たのにははっきりとした訳がある。
木彫職人が軒を連ねるこの地では多くの高級木材が使われるわけだが、そのおこぼれにあずかろうというのだ。近隣の観光駐車場に車を停めて石畳のゆっくりした坂を上っていくと、南砺市商工会の建物がある。その建物の表に面した側はちょっとした売店になっており、そこで木材の端切れのようなものがさまざま売られているのだ。
桜や欅、楠などの切れ端のようなのがゴロゴロと箱に突っ込まれている。
ホームセンターで買える木材と言ったらせいぜい普通の桧や松というところだから、これは大きな違いだ。彫刻をしたり細かな細工をしたりといった用途においては、DIYでよく使うようなのでは上手くいかない。全体がある程度かたく、重みがあって、なるたけ均質なのがいい。そのような材の方が滑らかに表面が仕上がるし、思いのまま細かな形も作りやすく、端正な仕上げにしやすいようだ。
僕もカメラオブスクラなど小さく精密な木製品を作る関係上、そのような木材を求めて井波へとやってきた。
友人のこと
僕と一緒に来た友人というのは、この半年ほど前に富山へ移り住んだ人であった。
その以前には、都会でカメラマンとして働いていた。その人が木彫刻に挑戦したいということで、僕らは箱の中の材をあれこれ物色して回った。
いろいろとおもしろいものも見つかり、そろそろ帰ろうかというところで、その同じ売店で見つけたのがこのZUCCAのジェラートである。
「ZUCCA」は井波とおなじく富山県南砺市にあるジェラテリアだ。南砺市福光の商店街にある店舗には実際にうかがったこともある。人当たりのいい元気そうな店員さんが印象的な、明るいお店であった。その雰囲気に合う、素材を活かしながらもさっぱりとした風味が心に残っている。
そのジェラートと、こんなところで再会しようとは思わなかった。
ジェラートと秋晴れ
二人してZUCCAの話で盛り上がっていると、この友人が一緒に食べようと僕のぶんまでジェラートを買ってくれた。ありがたくいただいて、店先で食べながら撮影をする。
その日は珍しく日差しの強い日で、外を歩いていると汗ばむくらいの気候だったのだ。ちょうど盆くらいの大きさの欅板を買ったところだから、その上に置いてみてシャッターを切った。
平日の人もまばらな通りを見つつ、ゆっくりと、時間は過ぎてゆく。