湯川真紀子のコトワザ・ジャイアント
お笑い芸人、湯川真紀子が諺や慣用句など、こすられまくった喩え言葉についてニヤニヤしながら書いています。
「トウが立つ」
私、伊沢加奈子。35才。
彼、野村翔。24才。
私たち、結婚します。
「父さん、母さん。紹介します。…こちら、野村翔さん。」
「…どうも。はじめまして。加奈子の父の伊沢俊夫と申します。」
「母の幸代です。」
「は、はじめましてっ。野村翔と申しますっ。あのっ、かっ、加奈子さんとお付き合い…そのっ、結婚を前提としてっ、おっ、お付き合いの方をさせていただいておりますっ。」
「…お付き合いの方?…方ってのはなんなんだね。全く、近頃の若いもんは、なんでもかんでもすぐに『方』をつけたがる。君、お付き合いの方があるなら、お付き合いじゃない方があるのかね。お付き合いじゃない方ってなんなんだね。遊びかね。一夜のやつかね。一夜の、ワンナイトのやつかね。一夜はねえ、…一夜は、一夜干しだけで充分だっ。」
「お父さん、落ち着いて!」
「お前にお父さんなんて言われる筋合いはないっ。」
「なに言ってるの、お父さん。加奈子が生まれてからずっとお父さんって呼んできたじゃない。それとも加奈子が生まれる前みたいに、トシくんって呼びましょうか。」
「…すまなかった…。…ごめんなさい。……それにしても、アレだね。野村くん、ずいぶん若いじゃないか。…いくつなんだね。」
「24…今年、5になります。」
「…24!!…その…加奈子の歳は知ってるのかね。」
「もちろんです。」
「35だぞ。」
「はい。」
「その…親の私が言うのもなんなんだが、加奈子は、その…。君には少し、トウが立ちすぎているんじゃないかね。」
「…確かに、盛りを過ぎることを『トウが立つ』なんて言い方をすることがあります。…だけど、トウが立つっていうのは、葉ものの野菜が育ち、茎が伸びることなんです。…茎が伸びたら…トウが立ったら、その先に綺麗な花が咲くんです。」
尻の青いガキ
「父さん、母さん、紹介するよ。こちら、伊沢加奈子さん。」
「はじめまして。伊沢加奈子です。」
「俺、加奈子さんと結婚しようと思ってる。」
「…失礼ですが、加奈子さん。おいくつでいらっしゃいますか。」
「35です。」
「翔はまだ24です。いいんですか、こんな尻の青いガキで。」
「…ガキというのは、餓えた鬼と書きます。翔くんは…翔さんは、鬼なんかじゃありませんし、餓えてもいません!…私たち、食べることが大好きなんです!食の好みもピッタリなんです!…それに…それに……お尻だって青くないんだからあっっっっ!!!」
イラスト:ほりたみわ