【後編】須田農園 社長インタビュー【高岡市】

前編では、高岡市にある須田農園の現場で、チューリップが人の手を渡りながら出荷されていく様子を追った。

後編では、その現場の中心にいる人の話を聞く。
須田農園の社長、須田達矢さん。
作業の合間、少し落ち着いた時間を見つけて、話を聞かせてもらった。

自然とそばにあった、チューリップ農園の仕事

須田さんがチューリップ農家になったきっかけは、「先代がやっていたから」。
特別な決意があったわけではなく、ごく自然な流れだったという。

大学では農業を学び、いずれは家の仕事に関わるだろうというイメージはあった。
ただ、すべてが予定通りだったわけではない。

30代前半の頃、先代であるお父さまが亡くなり、突然、自分が農園を継ぐことになった。
それまで手伝いはしていたものの、経営のことは分からないことばかり。
お金の流れも、判断の基準も、手探りの状態だった。

「周りの生産者の方に、本当に助けてもらいました」

そう振り返る須田さんの言葉からは、苦労よりも、人とのつながりへの感謝がにじんでいた。

立山連峰の絶景が見える農園なんて、そうそう無いだろう

「人」がつくる、農園の空気

農園に着いてから、ヨシコさんや他の従業員の方々に挨拶をし、作業の様子を撮らせてもらっているうちに、自然とあることに気がついた。

皆さんの雰囲気が、とてもやわらかい。

繁忙期で忙しいはずなのに、急にやってきた、どこの誰かも分からない取材者である私を、皆さんはとても自然に受け入れてくれた。

それは、社長である須田さんも同じだった。
私が声をかけるのを躊躇していると、須田さんのほうから気さくに話しかけ、いろいろな話をしてくれた。

皆さんの雰囲気のよさについて尋ねると、須田さんは短く、こう答えた。
「人が大事なんで」

理由を多く語るわけでもなく、当たり前のことのように。
けれど須田さんの立ち振る舞いを見ていると、
仕事の基本は人なのだということが、自然と伝わってくる気がした。

その言葉が、現場にある

その言葉は、休憩中の様子を見ていると、より実感として伝わってきた。
場の雰囲気は終始和やかで、部外者である私にとっても居心地がいい。

お渡しした「むがじん」を皆さんが手に取り、ページをめくりながら、それぞれの言葉で話をしてくれる。ひとりが話し始めると、周りの人たちも自然と耳を傾けていた。

遮ることも、流すこともなく、ちゃんと聴いている。
その様子から、この農園がチームとしてまとまっていることが伝わってきた。

須田さんの言葉は、理念というより、すでに現場の空気として根づいているように見えた。

繁忙期を支える、毎日の積み重ね

穏やかな空気とは裏腹に、話を聞けば聞くほど、須田さんの仕事は決して楽なものではないことが分かった。

球根を植えてから、花として出荷できるまでにはおよそ1ヶ月。
上手に育てば嬉しいが、すべての花がきれいに咲くわけではない。

8割から9割咲けば上出来。
品種によっては、1割ほどしか咲かないこともあるという。

時間がかかりすぎる品種は、その分経費もかさむ。
「やりたい気持ちはあっても、選ばない花もあります」
現実的な判断が、日々積み重なっている。

繁忙期には、毎日1万歩以上、多いときには2万歩以上歩く。
花が咲いていなくても、管理の手は休められない。
11月末から4月初めまでは、風邪を引かない限り、ほとんど休みは取らないという。

経営者でありながら、現場に立つプレイヤーでもある。
「今は正直、つらいですね」
そう言いながらも、「周りもみんな大変だから、自分も頑張ろうと思える」と続けた。

高岡のチューリップ農家同士の結束力が、
須田さんを支えている。

作業の中で、好きな工程

現場での作業を一通り見たあと、好きな工程について尋ねてみた。

作業の中で、好きな工程を尋ねると、
「花を組むところですね」と須田さんは教えてくれた。

咲いた花ではなく、これから咲く花を見極め、整える作業。
球根を植えてから花になるまでには時間がかかり、すべてがきれいに咲くわけではない。

それでも、うまく育ったときは嬉しい。
咲く前の状態で、花の行き先を思い描きながら手をかける。

須田さんにとって「花を組む」という工程は、チューリップと最も向き合う時間なのかもしれない。

チューリップは、「3」が基本

花を組む工程について話していると、須田さんは、チューリップそのものの話もしてくれた。

チューリップは、花のつくりが「3の倍数」になっている植物なのだという。
花びらは外側に3枚、内側に3枚。
おしべも、基本は3の倍数。

八重咲きの品種であっても、その基本構造は変わらない。
たまに花弁が5枚になるものがあるのは、突然変異によるものだそうだ。

きれいに揃っているように見えて、実は一輪ずつ少しずつ違う。
その話を聞いてから改めて花を見ると、均整の中にある揺らぎが、少し愛おしく感じられた。

切花を、暮らしの中へ

最後に、須田さんはこんな話をしてくれた。

花を作っている以上、買ってくれる人がいなければ続けられない。
特別な日のためだけでなく、
普段の暮らしの中で、花を飾ってもらえたら嬉しい。

ただ「きれいだから」「部屋に置きたいから」という理由で。

私自身、数年前までは「花を撮る」という目的があって、花を買うことが多かった。
けれど最近は、ただ花が家にあることそのものに、静かな幸せを感じるようになった。

特別な理由がなくても、ふと思い立って花屋に立ち寄り、一輪を連れて帰る。

花の色や、ほのかな良い匂い。
そして、少しずつ姿を変え、やがて枯れていくまでの時間。

その変化とともに過ごすことが、
人生をほんの少し、豊かにしてくれる気がしている。

前編で見た、咲く前のチューリップたちの静けさを思い出す。
あの花たちは、誰かの家で咲くために、ここを旅立っていった。

高岡市で、
今日もチューリップと向き合い続けている人がいる。

我が家に飾っているバラとチューリップ
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