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バラの花束。
高校時代、20代後半の男の先生に恋をしていた。
いけない関係に発展することはなかったが、我ながらなかなか惜しいところまで行っていたと思う。
先生への恋心は、高校2年生からの1年間という短い期間ではあったが、かなり情熱的だった。
部活はもちろん先生が顧問を務める部へ。放課後は特に用事がなくても部に顔を出して先生の傍にいる。日常的なアプローチなんて、出来るだけ近くにいることしかなかったのだ。
ごく稀に、先生の車で学校の最寄り駅まで送ってもらえるというイベントがあったりと、私は恋による喜怒哀楽を存分に堪能していた。
そんな中で、他の女子生徒との明らかな差を欲した私は、先生の誕生日に思い切った行動に出ることを決意。
そう、バラの花束を贈ることにしたのだ。しかも、歳の数だけの真っ赤なバラでなければならない。
当時、ホームセンターの園芸売り場でバイトしていた私は、上司に無理を言って赤いバラを仕入れてもらった。
誕生日当日には「ひとりでバラの花束を持って電車に乗るのが恥ずかしいから」と、友人に頼んで一緒に登校してもらった。
上司や友人の助けもあり、無事に先生にバラの花束を贈ることができた。先生は戸惑いつつも喜んでくれたし、私もうれしかった。
それ以降、先生から私への態度にだいぶ脈あり感が感じられるようになった。
旅行に行った際にはお土産を買ってきてくれたり、駅で反対側のホームにいる私にメールをしてまで気づかせたり、たった一度だけだが下の名前で呼んでくれたりもした。
花束、とくにバラの花束なんてものは男性が女性に贈るものだというイメージが強い。
しかし、男性にバラの花束を贈るのもなかなか効果的なアピール方法なのかもしれない。
少なくとも、こちらの本気度合いは伝わるのだろう。
先生とはその後もしばらく仲良く過ごし、周りの先生からも「お前ならイケそうだ」と謎のお墨付きをもらうほどになった。
が、恋に恋する女子高生。一向に手を出してこない相手にいつまでもかまけている暇はない。
私は3年生に上がってすぐに出会い系サイトで遊ぶようになり、それと同時に先生に対しての情熱は消え去った。
その後、何度か先生に「部活来ないのか?」と聞かれたが行かず、卒業アルバムの部活動写真のコーナーにも私の姿はなかった。撮影日に他の男と遊んでいたからだ。
先生からしてみれば「バラの花束までくれたのになんで…」という思いだったかもしれない。
でも、私はそこまでしても期待しているような展開にならないことに焦れていたし、卒業まで待つほどの忍耐力もなかった。
私の想いは、先生にあげたバラのように時間と共に枯れていっただけなのだ。いつまでも咲き誇っているわけがない。
私の人生において最初で最後であろうあのバラの花束は、高校時代の忘れられない思い出となっている。
結果的に女子高生に振り回されただけとなった先生にとっても、女子高生からバラの花束をもらったという貴重な体験として、忘れられない思い出になっているのではないだろうか。