西村陽一郎展「夏の夢」は正に夢のような展示だった!

7月8日から30日まで長野県千曲市にあるアートギャラリー「art cocoonみらい」にて開催中の、写真家・西村陽一郎さんの写真展に行ってきました。

5月の終わりに伺った際に次回写真展のDMを見た時から、これは絶対に行く!!!と即決。ビビっときちゃったんですよね。

というのも、2022年から花を撮り続けているのですが、何か新しい写真の撮影方法を取り入れたり、作品性を高められないかと考えていたタイミングだったのです。

今回展示されているのはスキャングラム(透過陰画法)による花と貝殻の作品なのですが、カメラの代わりにスキャナを使って写しているのだそう。これがもう、実物のプリントは本当に美しくて、溜め息が出るほどでした。

それに西村さんのお人柄も奥様との関係性も愛に溢れていて本当に素敵で、展示以上の何かを全身で感じて持ち帰ることができたような気がします。とにかく、プリントを見たら分かります。無限の宇宙が広がっていました。

透き通る花びらを彩る青が繊細で、まるで夜空に浮かぶオーロラのように華やか。だけど白昼夢のように儚くて、いつまでも見ていたくなる写真です。想像を超えて衝撃的な美しさでした。

初めてお会いした西村さんはまるで菩薩のような穏やかさで、心が洗われるようでした。

きっと何度も聞かれているであろう質問にも丁寧に答えて下さる真摯なお姿が印象に残っています。他のお客さんとの会話でも、日々の中にある色々な気づきを大切にされていることが分かりました。

西村さんという方からこのような作品が生まれるのは大変納得がいき、芸術家としての表現はもちろんのこと、人としての在り方の理想を西村さんが見せて下さっているように思いました。全てが私の指標とする方……師匠と呼ばせて下さい!!!

ということで、勝手に師匠とさせて頂きました。なんせ、ほりたさんという前例がありますからね。今回の展示でも勝手に師匠システムが発動しました。

art cocoonみらいのアーティストトークは必見!

さて、そんなこんなで運命的に師匠と出会ってしまった私ですが、今回のアーティストトークもとっても楽しみだったんです。こちらのギャラリーではアーティストが作品について語るだけでなく、一風変わったアーティストトークが行われているんです。

ほりたさんのお師匠さんである斉藤裕之さんも制作実演をされていたり、前回の神貴尋さんの個展では神さんがジャズピアニストの芳賀信顕さんとライブをされたりと、作品を見るだけじゃない楽しみがあるんです。

今回のアーティストトークでは、古典技法である「サイアノタイプ」の制作実演が行われました。サイアノタイプとは、およそ180年以上も前に発明された「青写真」と呼ばれる古典的な写真技法です。日光を使って感光紙に像を焼き付けるため「日光写真」とも言われています。

通常のフィルム写真の現像といえば、「暗室」と呼ばれる真っ暗な部屋でネガを印画紙に焼き付けるものを指しますよね。漏れた光によってフィルムが感光してしまわないように、部屋を目張りしたり、薬液の臭いが染み付いたりするのでなかなか骨が折れると思います。

一方サイアノタイプという手法では、日光によって焼き付けるため真っ暗な部屋を作り出す必要が無いので、素人の方でもやりやすいのではないでしょうか。

また、紫外線を使う場合には他の光の影響が無いので明るい室内でもできるんです!ブラックライト光が出力できるライトを持っていれば、今回の実演で西村さんが行っていたやり方でやるのが非常にオススメです。

夏休みの自由研究にもピッタリ!カメラを使わない写真「サイアノタイプ」の実演

用意するもの

①感光紙(今回用いられたのは普通の水彩紙ですが、画用紙、和紙の他にトートバッグなどの布地も可)
②フェリシアン化カリウム(赤血塩)
③クエン酸鉄アンモニウム(販売ページ
④バット(写真を水洗いするため)
⑤焼き付けたいもの(植物、写真ネガ、)
⑥ブラックライト光機(販売ページ
⑦ガラス板
⑧新聞紙(汚れないように)
⑨水(洗うため)
⑩ハケ
⑪タオル

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方法

使用するのはフェリシアン化カリウム(赤血塩)とクエン酸鉄アンモニウムという薬液です。フェリシアン化カリウムはヨドバシカメラなどで売られています。クエン酸鉄アンモニウムは若干手に入りづらくなっているそうですが、森本化成株式会社さんが販売されていますので、こちらからどうぞ。

そうそう、薬液が服やテーブルに付着すると青くなってしまうので、制作をする際は敷物や汚れてもいい服などでやることをオススメします。また、今回使うのは感光紙3枚分の薬液なのでフィルムケースを使用しているとのこと。

いざ実演!

まずはそれぞれの薬品を水で溶き、さらに2つを混ぜ合わせ、ハケで紙に塗ります。

この時、乾かす時間を節約するためドライヤーが使われています。感光紙が乾いて出来上がったら、焼き付けたいものを置きます。

今回は西村さんがギャラリーのすぐ側で拾ってきた杉の枝を感光紙の上に置いて、ガラスを軽く押し付けます。

その上からブラックライトを照射して、数分待ちます。黄色い薬液がブラックライトに反応して、瞬く間に青く変わりました。光量が多いと濃くなるし、距離によっても写し出される像の陰影や、青色の濃さが変わってくるのだそうですよ。

薬液を洗い流します

その後、バットに水を入れて感光紙を洗い、余分な薬液を流したらタオルで水分を取れば出来上がり!(洗い足りないと紫外線によって変化してしまうので、しっかりと洗い流しましょう)

大きさや仕上げたいイメージにもよりますが、日光だと5分〜10分くらいかかるものでも、紫外線では1分半〜2分くらいで定着できたりするようです。

定着させる時間が足りないと作りたい像も水に流れてしまうので、どのくらいのタイミングでどのような色味になるか研究が必要ですね。しかし、流れすぎてしまったものも芸術的で素敵です。偶然の産物を楽しめるのがサイアノタイプの良いところ。

最初に制作したサイアノタイプは照射時間が少々短かったのか、水洗いによってみるみる流れてしまいました。

西村さんは説明しながらなので、時間を正確に把握するのが難しそう。

その様子を察知したお客さんが、すかさずタイマーで計り始めてサポートして下さいました。私も写真を撮るのと手帳にメモするので精一杯だったので、ナイスアシスト!!!と心の中で激励を送っていましたよ。『今、1分経過しました』、『あと10秒です』と正確に刻んでくれるアシスタントさんの手腕に一同感激し、思わず拍手が。あたたかい空間にほっこりしました。

無事定着!

2枚目の葉っぱはさらに濃く仕上がり、3枚目には藍色の紫陽花が可憐に浮かび上がりました。時間や素材によってそれぞれ異なる表情が表れて大変興味深かったです。

「これは是非やってみたい!」という声や、「むかし日光写真ってやったよね〜」、「そうそう、太陽の下で」なんて会話があちこちから聞こえてきました。懐かしむ声と新鮮な驚きが入り混じる素晴らしい制作実演でした。

アーティストトークこぼれ話など

白いギャラリーに西村さんの写真を飾りたいというかおりさんのイメージ通り、真っ白な空間に青が浮かび上がる幻想的な展示となっています。

この作品のイメージに合わせて照明の白色も変えてあるのだそう。展示って、作品の展示方法はもちろんのこと、照明の位置や色味一つで本当に全く変わってしまうので面白いですよね。

焼き付けたいものによって光の通し方が違うこと、焼き付ける紙や布などの材質の違いによっても無限の広がりがあって面白そう。既に作ったものにまた薬液を塗り直して繰り返せば「多重露光」という技法もできます。

個人的には、かねてから人物の写真に花の写真を重ねた幻想的な写真をやってみたいと思っていたので、デジタルではなくアナログでやったら面白そう!

余韻も束の間

かおりさんのお宅でお世話になった2日間の滞在を終えて、翌日の仕事のために帰り支度を始めた私は「ああ、夢が覚めてしまう」と思わず呟いておりました。正に夏の夢のような旅でした。

あれからというもの、何を見ても「あの花をサイアノタイプにしたらどうなるだろうか……生卵とか面白いかも。この野菜は?」なんて、何でもかんでもガラス板で印画紙に押し付けたくなるんですよね。

こういったアナログな手法には純粋に作る楽しみがあるのだと分かりました。このデジタルの世だからこそ、こういった技法について学び、表現を深めていく価値があるのだと思います。若い世代にこそ伝えていきたいですね。

チューリップの美しさと儚さを表現したボンバージャケット

最後に……art cocoonみらいは師匠に出会ってしまうギャラリー!

なんとなく予感はしていたのですが、私も探し求めていた芸術の師匠と出会ってしまいました。

会える距離にいらっしゃる上に、神保町にある美学校に入れば西村さんの授業が受けられるというではありませんか!!!

週一回「写真工房」という授業をやっていらっしゃるんですって。

あまり人に教えたくはないのですが、生徒が入り続けてくれないと学校も続かないですから、ご紹介させて頂きました……。通うしかありませんよね。なんせ私はフィルム現像はおろか、写真の基礎的なこともちゃんと学ばないままここまでやってきてしまったので、こんなに有難いことはありません。

art cocoonみらいという場所は、師匠に出会ってしまうギャラリーみたいです。表現に悩む人も、なんとなく芸術に触れたいと思っている方も、ふらっと来たら大変なことになるかもしれません。どうぞ、ご存分にお楽しみ下さい。

西村陽一郎展​ 夏の夢

会期:2023年7月8日(土)〜7月30日(日)13〜19時 火曜・水曜休廊
入場無料(予約不要)

2023年3月に長野県千曲市にオープンしたギャラリーart cocoonみらいの4回目の展覧会として、2023年7月8日(土)〜7月30日(日)まで、西村陽一郎展「夏の夢」を開催いたします。

この度のart cocoonみらいでの「夏の夢」展には、スキャングラム(透過陰画法)による花と貝殻の作品を展示します。

スキャングラムは、カメラの代わりにスキャナを用いて写す撮影技法です。「フォトグラム」というカメラを使わずに被写体の影や形を写しとる古典的な暗室技法から、着想を得ました。

透過光により闇の中に浮かび上がる、青く、幻想的なイメージをお楽しみください。(西村陽一郎)

西村さんの個展を幾度か見るうちに”この西村ブルーを夏のart cocoonみらいの空間で見てみたい!”という衝動に駆られました。

黒い闇に妖しくうごめく青い像。種をあかせば、拾ってきた貝殻や朽ち始めた花びらだったりするのですが、スキャングラムという独自の技法により、色味が補色に反転して、青い磁気をおびたような姿になるのです。

初夏の日差しがまぶしい季節、漆黒の宇宙空間に浮かぶ未知の華をとらえたような魅惑的なイメージの数々に、あなたのさまざまな夢想を自由に重ねてお楽しみください。
( art cocoonみらい ディレクター 上沢かおり)

西村さんの在廊予定
7月29日(土) 、30日(日)  13-19時

art cocoonみらい
長野県千曲市土口378-1
art cocoonみらいのHPはこちら

西村さんのHPにもその他、展示会情報など掲載されておりますのでご参照下さい。

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