別れと始まり
魂のかたわれ、はるじとは運命としかいいようのない出会いだった。はるじの右肩に見えないはずの黒龍を見つけてからは奇跡の連続で、一回しか会ってないのにあれよあれよと一緒に暮らすことになった。
そこからの2年間は想像を絶する愛の日々。
わたくしははるじのスナック「ランデブー」でずっとやりたかったチーママになり、山岳ガイドかつ伝説のスノーボーダーはるじから登山とスノボを教わった。はるじは何をやっても褒めてくれたし、はるじが一緒ならこわいものなしだった。
はるじはわたくしがこれまで学んできた霊性や哲学について学び、熊手制作やデッサン等クリエイティブなことも始めた。内観の大切さ、真理についての知識を深め、そしてあらゆるものを創造していく楽しさを感じ始めていた。
お互いが尊敬しあい、お互いの世界に没入していき、二人はひとつになっていった。
はるじにがんが見つかる
2020年の春が終わりを告げる頃、はるじの膵臓にがんが見つかった。しかも肺と肝臓に転移もしていてすでに末期。
あまりの出来事に目の前が真っ暗になるかと思ったけどそんな暇もなかった。これまで以上にはるじの全てを心に、身体に、魂に刻み込んだ。
はるじのがんがわかってからは生きるために生きる毎日。がんを恐れず憎まず、がんを受け入れながらもはるじ自身は変容しながら。そしてみんなからはたくさんの愛を送ってもらい、はるじの余命は無限大になった。
そう思ったのも束の間。
がんの告知から16日目のこと。
最愛のはるじは肉体の衣を脱いでしまった。
思い出の日
そしてそれは二人が一緒に暮らし始めてちょうど2年の2020年の6月18日。幸せな思い出の記念日が、一気に悲しい記念日になった。
はるじが肉体の衣を脱いでしまってからは、それまで見たことのないはるじとの出逢いばかり。冷たいままのはるじ。美しい骨になってしまったはるじ。知らされなかった過去のはるじ。
はるじは嘘つきだった。想像を絶する嘘もたくさんあった。でもはるじからもらった愛はそんな嘘なんて吹っ飛んで余りあるくらい。
そうは言っても、はるじが肉体の衣を脱いでからの日々はいろんな感情も出来事も何もかもがごちゃ混ぜ。心も身体も追いつかない。これからの人生において、これ以上のことなんてもう起こるわけもない。
どうしようもなく悲しすぎたし、本当に愛してたし、愛されてたし、これからも愛し合い続ける。はるじは肉体の衣を脱いだけど、いつでも右のほっぺにいてくれる。だからもう新しいパートナーなんて必要なかった。
これまでとこれからのはるじとの関係を理解した上でわたくしを愛することができる人なんているわけない。
それにはるじ以上の人があらわれるわけもないし、はるじのお母さま八重ちゃんを看取るってはるじとも約束してたし(二人で看取ろうねって約束だったけど)、今後誰かと一緒になることなんて考えられない。
これからは八重ちゃんと肉体の衣を脱いでしまったはるじと3人で生きていくんだろうなって思ってた。
新しい始まり
それなのに。いた。
それは、はるじも大好きでいつも話をしてくれていたはるじのいとこ、じゅん。
はるじとの関係を理解した上で、全部ひっくるめてはるじごと愛してくれる、おひさまのような人。
でもそれは不倫だった。(つづく)