推しの仏像の話【無著・世親像】

2025年9月、東京国立博物館で特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」が開催されることが発表された。この特別展には、私の推しのひとつである無著・世親像が展示されるという。

私が広めるまでもなく大絶賛間違いない展示であろうが、「むがじん」読者の方にもぜひ足を運んでいただきたいと思い、このコラムを書くことにした。

興福寺北円堂 無著・世親像さま

無著・世親は「むちゃく・せしん」と読む。無著像・世親像の二人セットであり、なんと実在した僧侶の兄弟だそうだ。詳しくは調べてほしい。

通常は奈良県・興福寺にある北円堂という八角形のお堂に安置されており、他の仏さまたちと美しいフォーメーションを組んで、訪れる人々を弥勒の世界へいざなってくれている。春と秋の一定期間に特別公開されている。

興福寺 無著・世親立像

無著・世親像の好きなポイント

とにかくリアルなところ。

初めて無著・世親像の写真を見たのは、たしか高校の日本史Bの教科書だったと思うのだが、そのリアルさに「うわぁ、人だ!」という感想を抱いたのを覚えている。
作られた美しさではなく、血が通って肉があって感情がある生々しい「生きた人間」っぽさをとてつもなく感じて、「うわぁ」となった。

「生きた人間」と感じる理由は、表情だ。

無著さまの切れ長の目、しっかりと引き締められた口元のわずかなしわ。落ち着きのある思慮深い初老の男性である。まなざしが静かで、高校の国語教師のような印象がする。古文の授業をされたら、うたた寝する生徒が続出するだろう。午後の授業のあたたかな眠気を思い出す。

世親さまは玉眼(ガラスで作った目玉)がキラキラと輝いていて、片方の口角を上げ、ちょっとニヤリとした表情に見える。無著さまに比べると若くお茶目な感じがする。生徒に親しまれるタイプの教師になりそうだ。(高校の時に見知ったので、私の中ですっかり高校教師のイメージがついてしまった。)

どうということもない表情かもしれないが、わざとらしくない自然な感情を感じるところが大事なポイントだと私は感じている。

リアルに見えるから等身大だろうと思って実物にお会いしたところ、2m弱ほどのサイズだった。思っていたよりも絶妙に大きくて「えっ……大きいね?」と戸惑った。人としてあり得ない大きさではない、絶妙な大きさ。TVで見ていたスポーツ選手の身長が高かった、という印象に近い。

このようなリアルな像をどうやって作ったのだろうか。
実在したとはいえ時代が違うので、制作の場に呼ぶことはできない。写真も無い。伝えられる無著・世親兄弟の伝承を頼りに考えたのであろうが、どういう部分からこの造形や微妙な表情をデザインしたのだろうか。クリエイターとしても興味深いところである。慶派に関する本、読んでみよう。

特別展は弥勒如来坐像と四天王立像にも注目!

特別展では北円堂のセンター・弥勒如来坐像も展示される。さすがセンター!という堂々とした安定感があり、光背の化仏(小さい仏像)たちの領巾がキラキラとたなびいて美しい。無著・世親像と共にどのように展示され、来場者を魅了してくれるのか非常に気になるところだ。北円堂の八角形を模すのでは……とこっそり予想している。

また、中金堂の四天王立像も展示されるという。四天王立像はものすごく表情豊かで動きもひとりひとり個性があり、甲冑にある動物の装飾などいずれも細部まで凝っている。魅力を挙げれば春の日に流れる雪解け水の如くキリが無い。一体一体なめまわすように見たい。

2025年イチオシの展示である。ぜひ御覧になっていただきたい!

特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」

もっと知りたい興福寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)

もっと知りたい興福寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)

啓明, 金子
1,980円(02/21 00:20時点)
Amazonの情報を掲載しています
スポンサーリンク