湯川真紀子のコトワザ・ジャイアント第11回「泣きっ面に蜂」(なきっつらにはち)

湯川真紀子のコトワザ・ジャイアント

お笑い芸人、湯川真紀子が諺や慣用句など、こすられまくった喩え言葉についてニヤニヤしながら書いています。

泣きっ面に蜂

泣きっ面に蜂

突然ですが、私は、集中力が物凄い。よく言えば集中力が物凄くあり、悪く言えば集中力が物凄く散漫だ。

先日も、駅の構内を歩いていて、まあ、ちょっと不案内な駅だったのですが、「おおそうかそうか、そこのエスカレーターを上れば乗り換えができるのだな」と思ったら、もう、そのエスカレーターに夢中になってしまい、足元の一段か二段の階段に気がつかず、ビターンとこけてしまった。

どうですか、この集中力。ものすごいでしょう。

転ぶだけじゃありません。財布は忘れるし、定期も忘れるし、鍵もなくすし、自販機でジュースを買えばお釣りを取り忘れる、あったか~いとつめた~いを間違えて買うのは日常茶飯事、携帯の画面も割れるし、パスワードはわからなくなるし、パソコンにオレンジジュースをこぼしちゃったことだってあるんだからねっ!

あとは、指を切ったりやけどをしたり。

これが少女漫画の主人公ならよかったのですが、こちとら妙齢の生身の女性ですからね。

で、これらが束になって襲いかかってくることがある。

財布を忘れた日にころんで捻挫をしちゃう、とか。

まさに、「泣きっ面に蜂」なワケですよ。

でね、調べてみると、「泣きっ面に蜂」の類義語がいっぱいある。

「踏んだり蹴ったり」「一難去ってまた一難」「弱り目に祟り目」「コブの上の腫れ物」「転べば糞の上」「転んだ上を突き飛ばす」「傷口に塩を塗る」「ダブルパンチ」……。

もう、これは、ほとんど大喜利ではないか。

昔から、「泣きっ面に蜂」状態ってのは、よくあることで、みんなの共通認識として、「こういうことあるよねー」「あるあるーー」っていうのを、みんなして面白がっていろいろ言ってみた、というのが想像できてとても楽しい。

なかでも、「泣きっ面に蜂」ってのは、出色の出来なのではないでしょうか。

泣きっ面のヨシオ

そもそも、なんでこの人(仮にヨシオとでもしておきましょうか)は、泣きっ面なのか。

ヨシオの身になにがあったのか。

人間、しかもいい大人が泣きっ面になることなんて、なかなかない。

肉体だけでなく、メンタル面もやられていることが想像できる。

そうだ、きっとヨシオは、何らかの強化選手なのだ。日本代表の。そして、いよいよまさにこれからだ、という時に怪我をしてしまうのだ。しかも、それだけじゃなくて、意地悪な理事長とかが部活を廃部に追い込んだり、コーチが何者かに拉致られてどこかの倉庫に閉じ込められたり、天気が悪くなって飛行機が飛ばなくなったりするのだ。

これだけでも、もう十分に「泣きっ面に蜂」状態じゃないか。

しかし、ヨシオの不幸はそれだけでは終わらなかった。

蜂がブーンと飛んできて、ヨシオをブスッと刺すのです。しかもヨシオの顔面を。

…うわぁ。なんで、また、蜂?

なんでそんなこと思い付いた?

人間の涙の成分に蜂を引寄せるなにかがあるのでしょうか。

しかし、むしろ、こうなったらそんな理由もなく、ただただ理不尽に蜂に刺されたという方がなんだかスッキリする。

ヨシオには悪いけど。

【泣きっ面に蜂】不運・不幸が重なることのたとえ。
出典:故事ことわざ辞典

イラスト:ほりたみわ

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