仏像が好きかどうかわからないという人には、ぜひ仏像を実際に見に行くことをお勧めしたい。
私は「仏像イラストレーター」と名乗っているが、たまに「自分は本当に仏像好きなんだろうか」と不安になることがある。家や地域のあれこれでバタバタしていたり、本やマンガに夢中になったり……私をぐちゃぐちゃにして正体不明にするものは世の中にたくさんある。
そんな時は実物を見に行くに限る。目にした瞬間、そこに「ある」という存在感と迫力が、すべての不安をぶわっと吹き飛ばしてくれる。マスクの下の口元がにやけるほど興奮する。
なので、この記事を読む方々にも仏像の実物を見に行って、その存在を感じてみてほしいと思っている。仏像が好きかどうかの判断は、それからでも遅くないだろう。
仏像は基本的にお寺か博物館にある。今回は、博物館へ見に行く話を語りたい。
博物館でしか見れない魅力がある!
博物館は何といっても見やすい配置・ライトアップで見ることができるのが良い。最近は映り込みが少ない高品質なガラスが使われているらしく、とてもよく見える。あまりにクリアすぎて、気付かず顔を近づけオデコをぶつけたこともあるくらいだ。
貴重な文化財に負担をかけないような工夫もたくさんされていて、私はあまり詳しく無いのだけれども、展示される側にもとても優しい場所に違いないと思う。展示には、学芸員さんたちの愛があふれている。
個人的に印象的な3つの展示をご紹介する。
奈良国立博物館「法隆寺―日本仏教美術の黎明―」(2004年)
法隆寺の金堂は通常、建物の外からしか見ることができない。そのため、中にあるものを明るい場所で、間近で見ることができるのは非常に貴重な機会だ。
この展示では、天蓋(仏像の上にある傘・屋根のようなもの)という通常であれば天井近くにあるものが、目の高さに降ろして展示されていた。そのため、天蓋の縁にある四角と丸をくりかえすポップな模様や、ビーズのすだれのようなシャラシャラした飾りを間近で見ることができた。ラブリーなかわいらしさで、まるでプリンセスのお部屋を見てキャー!と飛び跳ねている少女の気分になった。
また、天蓋には飛天という小さな仏像の飾りがいくつも付いているのだが、これも近くで、一部は取り外されて単体で見ることができるようになっていた。この飛天は、丸っこくてコロコロとしたデフォルメ具合がとてもかわいらしい。こんな方々が頭上を飛び回っていたら、ずっと上を見て歩きたくなってしまう。
釈迦三尊像が乗せられている台も単体で展示されていたと記憶している。展示期間、釈迦三尊像さまはどこに座っていたのだろうかと想像すると、ちょっとソワソワする。
奈良国立博物館「法隆寺―日本仏教美術の黎明―」(2004年)
薬師寺といえば、有名な大きな薬師如来像と左右にひかえる日光菩薩像・月光菩薩像だろう。この展示では、その日光月光菩薩さまが東京に来ていたのだ!あの大きな像をどうやって奈良から東京まで移動したのだろうか。運搬技術がすごすぎる。
日光月光菩薩さまは、なんといっても背中のヴィーナスラインが美しかった。腰のくびれがなめらかで、黒く光る肌にライトが反射して、まるでモデルのショーを見ているような気分になった。普段、お二方は光背(後ろの飾り)を背にして立っているので、背中はなかなか見えづらい。展覧会だからこそできる貴重なショットだった。視点もライトの演出もどちらも素晴らしかった。
展覧会チラシが秀逸だったことも紹介しておきたい。キャッチコピーが「初のふたり旅」なのだ。初めてのふたり旅、二人で車窓の景色を眺めたりお弁当を食べたり東京観光したり!想像するだけで楽しくなってしまう。日光月光菩薩さまたちもワクワクしていたのかなと思ってしまう。私は当時、東京に住んでいたので、「ようこそ東京へ!」とお迎えするような気持ちになった。その間、真ん中の薬師如来さまは一人ゆっくりと、二人の帰りとたくさんの土産話を待っていたのだろう。
東京国立博物館「国宝 阿修羅展」(2009年)
この展示では阿修羅像がアイドル状態であった。阿修羅像のためだけの展示室が設けられ、来館者は阿修羅像を中心とした特設のらせん状の階段をまわって、少しずつ阿修羅像に近づいていくのを楽しむ……まさにドームライブでクレーンに乗って近くまで回ってきてくれるアイドルだ!この場合、回ってくるのは私たち来館者である。
美少年仏像として大人気の阿修羅さまだが、ここまでの特別扱いになっていることは想像を超えており、その驚きが一番印象に残っている。主催側の方々も阿修羅さまが好きなんだなあと伝わってきた。
(現在、阿修羅像は興福寺国宝館に展示されており、とても見えやすいことを補足する。)
この時の展覧会チラシは、ピンク色の背景に阿修羅さまが立っていた。阿修羅さまにピンク。キリリとした少年にピンクを合わせるという素晴らしい発想をしたのは誰なのかとても気になる。色褪せた赤い肌の阿修羅像にピンクの背景はとても似合っていた。
仏像の資料や写真といえば背景は白やグレーであり、厳かな展示なら黒っぽい背景が多い。それに見慣れていたものだから、仏像にかわいいピンクというのは、阿修羅さまが少年像であることをヌキにしても当時かなり驚いた。かわいいピンク、良いよね!私も今はピンクをよく使う。
これら3つの展示はいずれも十年以上前のもので、しかも私の記憶に残っているのをそのまま文章にしたので、多少間違いがあってもご指摘はお手柔らかにお願いします。
博物館は説明が丁寧!
博物館は説明がとても丁寧なので、ぜひ説明文も読んでほしい。音声ガイドという音声での案内もあって、説明文よりもさらにわかりやすくなる。有名な俳優さんや声優さんが声を担当されていることもある。耳にとてもやさしい。
小難しい解説文が苦手な方には、子ども向けの案内やワークシートをお勧めしたい。私も見たのだが、大人でも知らないようなことをかみ砕いて説明されているので、一度手に取ってみると良いだろう。
展覧会を見た後は、図録・グッズを楽しもう!
展覧会を自宅でも楽しめるアイテム・それが図録だ。大体2000〜3000円ほど。
展示物の高品質でフルカラーの美しい写真が満載で、解説文も載せてある。混雑し、近くでゆっくり見れなかったものや、展示期間の関係で見ることが叶わなかったものも、図録にはすべて収録されている。この品質の写真の量と解説が入ってこの値段はお買い得に間違いない。ページをめくり写真を見るたびに展示を思い出すことができる、素晴らしい品だ。
分厚くて重いので持ち歩きには注意が必要だ。調子に乗って過去の展示の図録などを買いまくった結果、カバンがかなりの重量になったことがある。帰り道が不安な方は通販で買うのも良いだろう。
最近は展覧会グッズもいろんな種類が増えてきた。お香、クリアファイル、Tシャツ、ぬいぐるみ、アクリルスタンドなどなど……。仏像の写真を使ったオフィシャル感あふれるものや、一部をモチーフとして使ったファン心をくすぐるグッズなど、作り手がファン目線に立っているのを感じてとてもうれしい。きっと気に入る一品が見つかるはずだ。ぜひ展示を見終わった時の高揚感そのままにグッズをゲットしてほしい。