今だから漆喰に描けたよね、と親方と話をしていた。
親方というのは、わたくしの屋根のお仕事の親方……ハゲの親方のこと。
ハゲの親方は屋根のお仕事においては親方でもあり、人生のパートナーでもある、かけがえのない存在。
ハゲ、というとあまり良いイメージを持たれないことが多いけれど、わたくしの「ハゲ」には愛と尊敬が詰まってる。
とある本に書いてあったけど、ハゲは「権威主義の象徴」らしい。わたくしの「愛しのハゲ」も、それはそれは「権威主義の象徴」だった。
なにかというと「絶対」と言い、自分の「これはこうだ」という思いを当たり前のようにぶつけてきて、思い通りにならないとすぐ苛立つ。一体どこの王様なんだか。
しかし、このハゲ……「権威主義の象徴」は過去のものになった。わたくしの愛しのハゲは世界を俯瞰して観れるようになり、口癖だった「絶対」も今ではネタとしてしか使わなくなった。
だからといって毛が生えてきたわけでもないけれど。もしかしたらそのうち生えてくるのかな。
屋根と漆喰
話を屋根に戻そ。親方の屋根のお仕事は本当に美しい。丁寧。無駄がない。子方のわたくしが「うへぇ」と思うようなところまでやる。他の親方だったらしないんじゃないかというところまでやる。
たくさんの親方を育てた大親方からも「あいつは丁寧だし仕事も早い」とのお墨付きなので、単なる子方のひいき目ではない。むしろわたくしは見る目がある。ふふふ。
仕事に対する向き合い方は全然「ハゲ」じゃない。お客様、屋根のことを最優先。そんな親方のことを本当に尊敬してる。
こんな素晴らしい親方のもとで働けるなんて、わたくし屋根の神様に愛されているとしか思えない。
わたくしも瓦職人見習いとして気づけば3年目。
いつまで「見習い」をつけていられるのかわからない年数になってきたけれど、おかげで漆喰を練るのもだいぶ上達した。……と、話をさらに漆喰まで戻す。
そう、漆喰。屋根のお仕事では欠かせない漆喰。
使うにあたって足りないと困るので、どうしても少し多めに作るから、毎回余る。捨てるのももったいないよなあと思いつつ、使うあてもないので処分する。
他の材料もどうしようもないものは処分するのに、なぜかその漆喰のことだけは毎度気になってた。
何かに使えないものか。
求め続けなさい。そうすれば与えられます。探し続けなさい。そうすれば見つかります。たたき続けなさい。そうすれば開かれます。
マタイ7:7
残ってしまった漆喰の有効活用について、漆喰を使うたびに考えていたので、ついに漆喰の有効活用の方法が与えられた。
屋根のお仕事をしてなかったら、漆喰に描くという方法を知ったところで、こんなにも描きたいとはならなかったろうな。