【前編】依存をやめられなかった本当の原因──トリガーの奥にある“根っこ”

筆者は30代、会社員。決まった給料のなかで生活費をやりくりするのが苦手で、学生の時に散財して作った借金はギャンブルでさらに膨れて150万円ほど。お金があればあるだけ使ってしまうタイプだ。

宵越しの金は持たず、見栄っ張りで、人に奢るのも大好き。趣味はギャンブルしかなかったが人には言えない。タバコや酒も好きでどちらも10年以上続けていたが、別に自分は依存症だなんて思っていなかった。ただ、毎日の生活の中で、やりたいことを追いかけるだけだった。

そんな自分が、なぜ依存から離れてこれら全てを手放すことができたのかを整理してみたいと思った。自分と同じように、「やめたいのにやめられない」と悩んでいる人や、「自分は大丈夫」と思い込んでいる人に、少しでも参考になればと思ったのだ。

結論から言うと、依存を手放す鍵は “なぜ自分がそれを欲するのか” という根っこに向き合うことだ。

タバコ編:快楽と不快のせめぎ合い

喫煙はおよそ10年にわたって続いた。

大学に入った頃、友人の勧めで軽い気持ちで始めたのがきっかけだった。社会人になってからは喫煙所を探すのが日常となり、禁煙を試みても何度も戻ってしまった。

ついつい吸ってしまうのは、あの感覚が欲しいから。吸った瞬間に「スッと抜ける快感」が忘れられなかった。だが実際には、血管が収縮し、倦怠感が身体を覆う。その不快ささえ、気づけば快感と同じくらい手放せなくなっていた

転機はコロナ禍。吸える場所が減り、社会の風向きも変わった。さらに、身体の限界を感じたことで「もう終わりだ」と直感し、吸いかけだったアメスピの箱を捨てた。

もう何年経ったか定かではないが、今ではタバコの匂いも煙も苦手になった。

酒編:習慣とストレス

大学時代から飲酒は習慣になっていた。風邪を引いたり、体調を崩さない限りは飲んでしまうし、やめようなんて思ったことはなかった。

目の前にあると、身体に悪いと分かっていても手が伸びてしまう。スーパーの酒コーナーでは理性と欲望がせめぎ合う。それでも結局は買ってしまうのは、単純に美味しいから、酔うと楽しいから、酔ったら気持ち良いから。

これのどこが悪いのか?──確かに人に迷惑をかけるような飲み方はしていない。夜中に喉が乾いて目覚めること、二日酔いになること、寝起きの悪さが当たり前になっていた。

体調を崩してる間に酒をやめて、回復していくにつれて身体の本来の調子の良さを経験する。そうなって初めて、あれが大きな負担だったのだと気づいた。それでもまた飲酒を再開していくのだが。

歳を取るほどに、人は「調子の良い状態」を忘れていく。

むしろ、不調の方を通常の状態だと錯覚し、だましだまし生きていくようになる。根本的な治療ではなく対処療法に頼り、衰えを受け入れる。入院などで物理的に飲めなくなって、ようやく観念するのだ。

酒編2:ストレスと逃避

ある時、こんな言葉を耳にした。「健康な人は酒を欲しがらない」。
その言葉が突き刺さった。つまり自分は、飲まなければやっていられない精神状態にある──そう気づかされたのだ。

酒を欲する前には、必ずトリガーがある。筆者の場合、それは多くの人と同じくストレスだった。緊張感ある仕事の後の開放感、嫌な出来事を忘れたい夜──そうした場面で「酒を飲む」という習慣が根づいていた。

しかし本当の原因は、酒そのものではなく「ストレスから逃げたい心」にあった。飲むことでやろうとしていたことを放棄し、考えるべきことから逃げていた。

気づいたのは、その「根っこ」にどう向き合うかだ。知人でむがじん編集長のほりたみわ(現・多神和)に教わった「根っこへのアプローチ」のことを思い出した。

酒編3:掘り下げと抽出

ここ数年で、依存だけでなく日常のあらゆる出来事の「根っこ」を探るようになっていた。

たとえば、仕事相手からミスを指摘されることが怖かったこと。メールを開くだけで心臓がドキドキし、頭の中は対処方法でいっぱいになる。今振り返ればこれはパニックに近い症状だが、当時は「これが自分にとって普通」だと思い込んでいた。

たとえば、人前で発言すると緊張すること。大勢の前で発表をする時、前日や準備の段階でも心臓がバクバクしてくる。緊張感で身体はこわばり、声が震える。

そんな心や身体の反応も「自分はそういう人間だから仕方ない」と受け止めていた。

しかし実際はそうではなかった。虫を怖がる人と平気で捕まえられる人がいるように、反応はその人固有の体験や過去のトラウマに由来する。そう気づいてからは、自分の感覚をひとつひとつ確かめるようになった。

「なぜこれが怖いのか?」「なぜこれが嫌いなのか?」「この緊張は何に対してか?」
問いかけを重ねていくと、驚くべきことにいつも同じ記憶に立ち返った──何十年経っても思い出せるほど記憶に残っていること、つまり小さな頃のトラウマだ。

そのトラウマを癒していくうちに、不安や緊張の種は消え、かつてパニックになったような出来事にも動じなくなった。「こんなにも人は変われるのか」と、自分自身が驚いた。

そして気づけば、酒に依存する理由も少しずつなくなっていた。
つまり、ストレスの種そのものが減っていったのだ。

すでにタバコをやめていた経験があったのも大きかった。無理に我慢するのではなく、自然と距離ができる瞬間があることを体験していた。その感覚があったから、酒についても同じように向き合うことで、ついに手放すことができたのだ。

『次回予告』ギャンブル編

もっとも厄介だったのはギャンブルだった。
最初のきっかけは偶然の勝ち体験。負けが続いても、やめられない日々が続いた。

「やめよう」と思うほどやめられず、気がつけばまたパチンコ店へ足を運んでいた。
意志の弱さではなく、無意識に働く“トリガー”に反応していたのだ。

どうぞ引き続きお付き合い願いたい。

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