湯川真紀子のコトワザ・ジャイアント
お笑い芸人、湯川真紀子が諺や慣用句など、こすられまくった喩え言葉についてニヤニヤしながら書いています。
後の祭り
とにかく、物事に取りかかるのが遅い。
あ。わたしのことです。
こんなとき、よく引き合いに出されるのが「夏休みの宿題」。
そりゃあもう、とにかくやらなかった。
自分で言うのもなんですが、わたしは、勉強しなかったが成績は良かった。中学生くらいまでは。ですから、夏休みの宿題をバカにしていた。こんなもの、わたしの手にかかればチョチョイノチョイだわよ。ワハハハハハ。
日記?そんなもの、わたしの記憶力と創作力にかかれば、あっちゅうまに完成だわよ。
自由研究?エジソンとかキュリー夫人とかの伝記を読んでいるから大体のところはわかっている。ひらめきさえすれば簡単カンタン。素晴らしいものをお目にかけましょう。
絵?わたしの創作能力と素晴らしい色彩感覚で素晴らしいものが描き上がるでしょう。雪舟の伝記も読んだことあるし。雪舟は涙でネズミを描いたんでしょ。足の親指で。真紀子が絵の具で筆を使って描くんだよ。素晴らしいに決まってるじゃないか。
読書感想文?本を読むといえば二宮金次郎でしょう。伝記を読んだことがあるから知っている。本を読んで感想をしたためるだけでしょ。なんか感動する話を読めば簡単カンタン。あーー、ズッコケ三人組は面白いなあ。
そしてやって来る8月31日。
目の前に積み上がった完全白紙のロックンローラー。…いや、夏休みの宿題。
ただの白紙だけじゃないよ。自由研究や、絵を描くための白紙の紙すら無かったりする。
エアー白紙。
白紙なのにお先真っ暗。
母親に怒鳴られながら、宿題に向かう。
涙があとからあとからこぼれてくる。
これがね、わたしの最低なところなんですが、自責の念にかられての涙じゃないんですよね。
こんなにたくさん文字を書いたり絵を描いたりしたら、わたしの右腕が死んでしまう。それだけじゃない…いつもは強制的に9時には寝かされているのだ。「8時だヨ!全員集合」も最後まで見せてもらえないのに…このままいくと徹夜になってしまうではないか!…徹夜?…徹夜?!…こんないたいけで可憐な小学生が徹夜なんかして、無事に朝が迎えられるとは到底思えない…。きっとその瞬間は明け方近くにやって来るに違いない。あと少し、あと少し…。自由研究の、とは言っても今の時点でなにを研究したのかは分かっていないのだけれど、小学生にとって永遠とも思える徹夜の時間を考えれば何かしらの研究が終わっているだろう、それをありもしない模造紙にしたため、最後のまとめに取りかかろうとしたその時、朝の光と共に空から天使がたくさん舞い降りてわたしをお空に連れてってしまうに違いない。そんなことになってしまっては、いや、なるに違いないのだけれど、そうなってしまっては、せっかく仕上げた宿題が提出できないではないか。宿題を仕上げても仕上げなくても提出できない、あああ、提出できないのが分かっているのに、こんなに健気に頑張る真紀子!お母さん、お母さん!!今日が私とあなたが一緒に過ごせる最後の夜なのですよ。そんなに怖い顔してないで、せめて一緒に笑って過ごしましょうよ。
てなことを考えて、滂沱の涙を流していたのでした。
いや、ほんとにダメな子供だ。
…あれ、おかしいな。「泥縄式」について書こうと思っていたのに。「泥棒が来て縄をなう」。
縄をなうことなく滂沱の涙を流している。
しかしながら、あのテンションの高まりは、もう、祭りだった。
そう、これが「後の祭り」。
祭りの喧騒。
ピーヒャラピーヒャラドンドンドン。
出典:故事ことわざ辞典
イラスト:ほりたみわ