おとめの祈り
「ぽるぼろん、ぽるぼろん、ぽるぼろん。わたしの願いをかなえてちょうだい?」
口の中のまんまるお菓子を崩さずにその名前を3回唱えると、なんでも願いが叶うといいます。願いが叶って幸せになって、お姫様にだってなれるのです。
スペインの「ポルボロン」なるお菓子には、そんな言い伝えがあると言う。「ポルボ」というのは塵のこと。口の中に入れれば脆くも崩れ去ってしまうお菓子には、そんな儚い名前が付いた。
スペイン生まれのか弱き姫はいつしか隣国フランスへと渡り、そこで新たな名前を受ける。
「ブールドネージュ」。雪の玉という意味らしい。時代の波にもまれてか、かつてほろほろとあまりに脆かったそのクッキーは、サクサクとした歯応えのある食感となった。今日は、そんな可憐なお菓子の話。
茶色い雪玉
本来のブールドネージュは粉砂糖がけで真っ白なのだが、中尾清月堂のこれはココアがけ。
茶色く地味な色合いで、味も、甘すぎない大人びたもの。ナッツの風味と食感が効いていて、ココアパウダーの豊かな苦みと響き合い実にバランスがいい。
老舗和菓子屋の洋焼き菓子は、均整がとれて味わい深いものが多いようだ。わかってるなあなどと、わかったようなことを思いながら全部たべてしまった。
童話の姫
雪の姫と言えば白雪姫。あろうことか母に毒林檎を渡されて、硝子の箱で眠りについた少女である。死してなおやわらかなその頬は、王子様には甘い焼菓子のように見えたのだろう。
その接吻で目覚めた少女は、王子にめとられて幸せを手にした。
ポルボロンまで話を戻せば、シンデレラの話も思い浮かぶ。虐げられるか弱い娘は、まさにポルボロンのイメージにぴったりだ。
シンデレラの直接の原作はシャルル・ペローの「サンドリヨン」だと思われるが、その意味するところは「灰かぶり」。奇しくも、「塵」のイメージにも近い言葉だ。継母と姉たちにひどく扱われ、ぼろぼろの服で汚れにまみれて働いていた少女。
参考:スペインの伝統菓子「ポルボロン」とは?言い伝えやレシピを紹介 | DELISH KITCHEN