からの続きです。佐竹さんと新藤さんから直接お話を伺える貴重なひととき。ボンバージャケットを喜んでいただき開幕からテンションはMAX。
イラストレーターとして、佐竹さんの描く構図や手の表情に釘付けになってしまっているほりたみわの質問は続きます。
(インタビュー撮影:冨田実布)
佐竹さんが描く手の表情

うん。手難しいよね。

こういう所もそうだし、ポーズの1つ1つで手がすごいじゃないですか。この手を洗ってから来た時のこの手の形にしても。


あははは!

そう。ああ、はいはい。

ああ、なんかもうやるよねっていう、その瞬間をちゃんとこうピッタリ。

ありがとうございます。いやいやいや……いや、手難しいんですよ。角度によっても全然想像できないぐらいに。自分の手でね、やるんだけど。
何かうまくいかない、絵で何が難しいって手が一番難しい。

うん。うん。そうですよね。

手と目。うん。本当難しい。

それなのに、本当に至る所にその表情があって、素晴らしいなと思って。

それで、手のモデルってあるじゃないですか。木の。あれ、あるんだけど、色々試してもね。なんか一応基本では分かるんだけど、例えば鉛筆握ってるこういうのなんて。
でもその手のモデル使っててもなかなかうまくいかなくて、やっぱりね、想像なんだよね。でも決まらないよ、手は。うん。

手は難しいよね。子供のとかね、おじさんの手とか色々ありますもんね。

うん。難しいです。あ、でもありがとう。

挿絵を見るたびに、佐竹さんの描かれる手がすごい素敵だなと思ってたんです。
あ!あと、布で作られた、あの竜を拝見したり、佐竹さんの描かれたさまざまな「龍」を見ていてずっと気になってたこと……佐竹さんは龍は見たことありますか?
佐竹さんが「いるかも」って思った龍の話

あはははは!あるわけないじゃないですか。

そうなんですか!佐竹さんの作品を見ていたら佐竹さんは龍を見たことあるんじゃないかなって思ったんです。

龍ってよくお寺とか神社、世界各国、中東にもあるし。中国から来たのかしらね日本にね。なんでだろうと思う。龍の存在。

なんか自然現象から龍を感じたりってありますよね。

いや、唯一すごい、龍いるかもって思うのは……今は無いけど、東京のヒートアイランド現象。
すっごい時が真夏で真っ黒な雲が、この辺まで来てんじゃないかっていうぐらい、こうガーって雲が沈んで来て、それがね、渦巻いてんですよ東京で。その時に、龍ってこういうところからみんなが、想像して作られてるのかなと。
神的なものから蛇とかグリフィンとかね、いろんな生物いるじゃない。で、日本だと水と水を護る神、水神とか天龍いるよね。
まあ、実際にいるいない関係なしで、なんかかっこいいなと思います。

ちょっと聞いていいですか?
いろんな作家さんの作品に登場する龍の描き分けってあるんですか?
佐竹さんの「龍(竜)」の描きわけ

うん、文章で手足があって、翼がある龍の作家さんもいるし、恐竜のっぽい竜もいて。魔法で飛ぶっていう、本当にファンタジーな竜もいて。
いろんな龍があるんだけど、簡単に翼をつけたくないんですよ。だって、ローワンでやってて思ったのは、鳥でも何でも、肩甲骨とか、唯一爬虫類で翼みたいなのがあるのはトビトカゲなんですよね。
あの、こうなってて、こことね、ひれ、膜があって、それでトビトカゲは木から木へ飛び移るんだけど、その翼っていうもののしくみって、鳥は肩甲骨がこうなってて、これが広がって翼になるわけ。
で、よく物語に出てくるのは、手足があって、手で何かつかんで、翼で飛ぶみたいな。あれって骨格的にどうすんだっていうか。

確かに矛盾してますよね。

だから、適当に翼をつけたくないんですよ。

おおおおー!なるほどー!

アニメなんかでも見てても、あの巨体をあんな翼で飛ばせるかみたいな。どうしてもそっちが気になっちゃう。骨が好きだから。
色んなファンタジーの化け物でも竜でも、別に何でも良いんだけど、頭の中に骨は作るんです。で、そこに肉付けしていけば……シェーラ姫なんか、蟹とね、何かと何か3つぐらいね、混ざった怪物が出てくるんですよ。でも、それもう簡単にできる。骨さえあれば作れる。
別に竜だけっていうんじゃなくて。

なるほど!おもしろいですね。すごい。

その骨にいたったのはいつ頃なんですか?
骨の話


やっぱり竜、ローワンの竜を描いた時。もくじの下に村に飛んでくる竜の背中を描いたんですよね。で、そこの時に、翼が見えるかなと思って、翼を描こうとしたら、どうしたらいいか分からなくて。それから、「ああ、そういえば骨だな」って。
だから、仕事をしながら骨にハマっちゃった。それから骨が好きになって。東大の赤門入ったろことに東大総合研究博物館があって、骨の展示があるんですよね。常設でもあったけど、ある時、ヒメネズミからクジラまでを展示してたんですね。きちんとじゃなくて、バラバラなんですよね。もう鳥肌。

見に行ってすごいすごいって言って。

ちっちゃいね、ハツカネズミなんかきれいなんですよ。動物ってね、本当にきれいで機能的で、自然ってなんですごい芸術家なんだろうって思った時に、一体だけ醜い骨格があったんです。

醜い……気になりますね、それ。

何だったと思う?醜い骨格。違うでしょ?みたいな。

機能的じゃないってこと?自然に。じゃやっぱ人間なのかな?

そう。一挙にきれいな骨の中で一体だけこう立ってるのは気持ち悪いんですよ。無理でしょ?あ、私今坐骨神経痛だけど、結局そこに来ますよねっていう。
骨格が無理だって思うんですよね。猿はいいんですよ。猿はやっぱりちゃんとそれなりに曲がっていて、手足使ったり、尻尾使ったり。猿はすごい機能的なのに、人間がそっからこう立ち上がった、あの、気持ち悪さに納得した。

あははは!

じゃ逆に一番お気に入りの骨っていうのは、何ですか?

何かやっぱそう、こんなちっちゃいのに、完璧なネズミとか。きれいな肋骨でね、ちょこんと頭がついてて、ちっちゃい手足も、完璧なんです。
佐竹さんの言葉の表現力も大好きです!この言葉から美しくかわいらしいネズミの骨が想像できちゃいますもんね。うっとり。
「ラナと竜の方舟」の竜について

この「ラナと竜の箱舟」の時のこの竜で、この工夫したとか、この竜はこういう風にしたみたいなのはありますか?

難しい。

これはね、そのさっきおっしゃった、佐竹さんが作った竜……おうちにあった竜を私が遊びに行った時に見て、これすごいなって思ってたの。
この竜は、何かこれいいなってずっと思ったんですよ。そのあとで、その砂漠のこの舞台を描こうとした時に、ちょっとあの竜なんとかなんないかなっていう風に思って入れたんです。でも中近東……この中には書いてないけど、一応イランのあたりが舞台なんですね。
で、中近東の竜って、日本あたりの東洋の竜とも西洋のドラゴンとも違うんですよ。ちょうどその中間みたいな感じで、何か顔はラクダの顔。

そんな感じ。

へぇえ!

で、ひげどうすんのとかいろいろあるんですけど。ひげないし、つばさも無いんですけど、何かそういうちょっと細密画に出てくる竜とか、そういうのを見て貰って。でもなんか違うねとかって、やっぱり顔が動物の顔だとかって言ってたけど、何かそういう難しさがあるかなって思う。
だけど、その一応中近東の竜なんだけれども、佐竹さんが作った竜でもあるんですよ。何か佐竹さんの竜が背中だったり、あと尻尾の先とおでこの所にそういうきれいなキラキラがついてるんです。そういう佐竹さんが作った竜の要素も入れて欲しかったっていうか。


あぁ!それでキラキラしてる。

今までになくきれいな竜だなと思って。今までのこう、どろどろしてる何か爬虫類みたいな。

そうなの。元がきれいだから。

本当にすごいきれいな竜なの。

この竜のことも明日の講演の最後、時間あれば話するので写真持って行きますね。

わあ!楽しみ。
佐竹さんの竜と一枚の絵から生まれたお話


で、聞きたかったんだけど、うちの竜見る前にやっぱりこういうお話を作りましょうっていう計画は頭の中には?

ない、ない。
え?最初見た時はただ遊びに行った時だったじゃない?何もなかった時だから、この竜すごいなって純粋に思ったの。そしたらさ、小学館から竜の話を出すのに……みたいなこと言ってなかったっけ?

ああ、はいはいはいはい。

そうそうそう。小学館から竜の話が今度出るんだよっていう話を聞いて、あ、そうか、佐竹さん竜いっぱい描いてるしなーなんて思った覚えがあるの。
で、全然これのアイデアっていうか話は全くなくて、基盤もなかった。それで岸井さん(「ラナと竜の方舟」の編集さん)が「何か書きませんか?」って言ってきてくれた後に、何か書くんなら何が良いかな……なんて思った時に、イランのあの絵を舞台にして書きたいんだけどどうですかね?みたいな。

そうかー。

そうしたら「いいんじゃないですか」とか言ってくれて。それで、あ、だったら今こそ佐竹さんの竜をって。

へえ!じゃあすごい早さだね。出来上がりっていうか、その世界を作った早さっていうか。

なんかね、これは……あの絵もいつか何かで使いたいなと思ったあの舞台になった、あの「エンプティ・プレイス」っていう絵。
絵がずっとうちにあって、それもいつか何かで使いたいと思ってたけど、具体的な案が無くて。その「いつか」と、その竜の何かっていうのが、うまくはまって。そんな感じ。
割とそうね、岸井さんから「何か書きませんか?」って言われて、どうしようかなって思って、1回目の打ち合わせで、このこと書きたいけど、一度うちに絵を見に来ませんか?って言って。
あのエンプティ・プレイスの絵を見に来てもらって、これ舞台にしたいんだけどみたいな話をした時に、「いい、いいんじゃないですか」って。そう、そっからだね、話ができたの。
あぁ、奇跡ってなんていうかこんなふうに起きますよね。何かしら熟成されたものがある瞬間に奇跡になるというか。
児童書には竜が多い

早かったね。それからお話しが。まあ、だから意外と児童書は竜が多いですね。

そうね。それで私もそれを佐竹さんに描いてもらったけど、他でもいろんな人が竜を書いてて。児童書ってなんでこんなたくさん竜が出てくるんだって思ったくらい。本当すごいよね。

でも、形としては私好きなのは、あの、帆船。それと、マストや帆を支えてる無数のロープ!1本も無駄なものが無くて、全部が帆船のために働いている!帆船が美しいのははりめぐらされたロープがあるから。蜘蛛の巣の様なロープも美しい。
だから電柱の線も好きなの。無駄じゃないけど。みんな理由があって、あの、ぐちゃぐちゃしてる。あっちが好きなの。
だからそういう意味では、あの、ずるっとした蛇よりは竜の方が描くのが好きなんです。

何かその佐竹さんが作った竜もかっこいいんですよ、きれいなんだけど。それが家にいるんですよ。

分かるでしょ。うち狭いから、置き場所がね。

すごいよね。何か他にもいっぱいあるの、いろんなものが。だからね、本当に行くと目移りしちゃう。

冷蔵庫の前に転がってますよ。
冷蔵庫の前に竜が転がってる……!!字面がもうファンタジー!!!
佐竹さんとリアリティ

それで、資料もすごいたくさんお持ちだし。そう、私が絵を描いてもらうために、色々資料渡したりするんだけど、「あ、それ持ってます」とか、「同じの持ってる」とか言って。

資料はね。まあ、何か興味、作家さんに何か興味持つとどうしても資料はね。集まって。

ですよね。絵を描くために、ついどんどん集まりますよね。

うん。で、それをね、またやってくれる人は少ないの。みんな面倒くさいじゃない?そんなの調べて書くのって。だけど、それが好きなのよ佐竹さんは多分。

なるほど……だから佐竹さんの絵ってなんだかリアリティがあるなって思ったのは、そういうところなんですかね。

でもリアリティは、あんまり極めたくないっていうか。リアルな手前で、曲がっていきたいっていうか。何だろう。あんまりリアルじゃない、リアルなんだけどリアルじゃない。うん。
リアリティって言っても、佐竹さんの「リアリティ」は「生きてる」っていう意味でのリアリティ。なんていうんだろ、絵に「いのち」を感じるんですよね。みんないきいきしてる。動き出しそうっていうより絵が動いてる。
まだつづきます!
インタビューというより、佐竹さんと新藤さんのお話をずっと聞いていたい……と思いながお話を伺っておりました。
「ラナと竜の方舟」の挿絵と文章の一体感がすごいのはこのお二人の仲の良さゆえなんだろうなあと思いつつ、インタビューはまだつづきます。
ああ、構図のお話ですね。で、あとは佐竹さんの作品どれもそうなんですけど、手の表情がすごいじゃないですか。