愛は時空を超える?小説の面白さがわかる直木賞受賞作「月の満ち欠け」

月の満ち欠け

小説の面白さがわかった

休日の昼下がり、たまたま地元の書店に寄って文庫コーナーをザッと見ていた。

岩波文庫のコーナー、書棚の手前に「直木賞受賞作!」と、この店には珍しくポップが差してある。佐藤正午さんの「月の満ち欠け」という本だった。

ただでさえ積ん読が家に山ほどあるし、あらすじを読んでもピンと来なかったのに、なぜこれを買うに至ったのか。それは、本の帯(裏側)に書いてあった、作家である伊坂幸太郎氏のこんな推薦文がキッカケだった。

「小説を読まずとも人は生きていけますし、それでいいと僕は思っているのですが、もし、誰かが、『1冊くらいは読みたい』『しかも、ただの暇つぶしではなく小説の面白さを知りたい』と言ってきたら、佐藤正午さんの作品を読んでほしいと思っています。」

この文章に見事に釣られて、ふらっと寄っただけのつもりがちゃっかり購入してしまった。

恐るべし、本の帯!(裏側)

結論から言うと…本当に小説の面白さを知ることが出来た!

普段は恋愛ものとか読まないし、どちらかというと純文学が好きなので現代小説には疎いが、こんな面白さあったんだ!と思いもかけず感動すら覚えたほど。

愛は時間も空間も超えるというロマンチックなストーリーが、とてもリアルに描かれている。

こんなことがもし自分の身にも起こったらどうする?

そう考えずにはいられない作品。

あらすじ(岩波書店HPより)

あたしは、月のように死んで、生まれ変わる――目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか?

三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。

この数奇なる愛の軌跡よ! 新たな代表作の誕生は、円熟の境に達した畢竟の書き下ろし。

さまよえる魂の物語は戦慄と落涙、衝撃のラストへ。

題材からして面白いに決まってる

あらすじをザッと読んではいたけれど、こうもガッツリSF的な題材だとは思わず、最初は少し面食らった。

もし前世が本当にあるなら、もしも前世の記憶を持ったまま現世に生まれてきたら、どうなるのか?

SF映画好きな私には前世とかタイムスリップとか日常茶飯事(?)なので想像に難くないのだが、本だと自分の想像力がいくらでも膨らむので映画とは異なって新鮮な感動があるものだ。

愛のパワーはちょっと怖い

個人的にはこの作品はストーリーに関して何も知らない状態で読むことをオススメする。ただ、それじゃあどんな本か分からないという方もいるだろうから、以下少しネタバレしながらストーリーをご紹介。

運命的な出会いから恋に落ちた男女。けれど、その女性は不慮の事故で亡くなってしまう。

数年後、彼女はまた同じ名前の少女に生まれ変わる。

7歳の少女がある日を境に知るはずのない古い歌を口ずさみ、どこで覚えたのかも分からないような知識を持ち、親の目を盗んで頻繁にどこかを目指して家出を繰り返しながら、何かを探し求め続ける…。

改めて書き出すとちょっと怖いし、読んでいても少しホラー要素があるので夜寝る前に読むのはオススメしない。

だけど、もしも自分が生まれ変わって好きな人にようやく出会えた時に「ずっと待ってたんだよ。」なんて言われたら、生まれ変わった甲斐があるのかも。

巧みな伏線回収とストーリーテリングの妙

「ストーリーテリングとは、伝えたい思いやコンセプトを、それを想起させる印象的な体験談やエピソードなどの“物語”を引用することによって、聞き手に強く印象付ける手法のこと。」(コトバンクより)

私が感じたこの小説の面白さをあげるとすれば、読み手の導き方にあると思う。

私たち読者というものは、読みながら「こういうストーリーになるのかもしれない」、「この出来事の意味は?」と知らず知らずのうちに予測を立てているものである。

その予測を裏切られた時の「まさか」という展開から受ける感動があり、自分の架空の予測が本のストーリーの中で現実になった時の「やっぱり」という期待にもしっかりと応えてくれている。

後々の伏線回収の手際の鮮やかさは清々しさすら感じる。

まとめ

この本のなによりもオススメな点は、非常に分かりやすく、読みやすい文章だということ。

ちょっとした謎解きゲームでもしている気分でストーリーを追いかけるのが楽しかった。

「こういうの大好物!」という人はもちろんのこと、「スピリチュアルとか、SFとか、そんなの信じられるか!」という方も、是非この本の中で起こる数奇な運命を目撃してみてほしい。

おまけ

この本の末尾にある伊坂幸太郎氏の特別寄稿がまた素晴らしく、私はすっかり佐藤正午氏のファンに。

用事で川越へ向かう電車内で読み終えた私はすぐさま最寄りの本屋へ入り、彼の作品が並ぶ書棚へと向かった。

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