TOKYOという「未来都市」
日本のポップミュージックにおける「未来都市」の表現は、1980年代のTM NETWORKに端を発すると言ってよいでしょう。彼らの代表曲「Get Wild」「Beyond the Time」などは、シンセサイザーを駆使したサウンドによって、都市の疾走感や孤独感を描き出しました。その響きは同時代の映画『ブレードランナー』や『TRON』と共鳴するものであり、テクノロジーと人間性が交錯する「ネオ東京」のイメージを広く共有させる役割を果たしました。
その後、2000年代に登場したCAPSULEは、この系譜を現代的に更新しました。中田ヤスタカが生み出した音楽は、エレクトロニカやクラブカルチャーを背景に、ファッションやデザインと密接に連動しました。これは、都市空間そのものがサウンドの一部となる感覚を提示した点で、80年代のTM NETWORKが示した「未来都市像」をデジタル時代の文脈に移し替えたものと位置づけられます。音像はよりミニマルで洗練され、前述した『TRON』に象徴される光の回廊や仮想空間を想起させるものでした。
さらに、Perfumeはその流れを大衆的なポップスへと拡張しました。テクノロジー的な質感を前面に出しつつ、歌とパフォーマンスを通じて人間的な感情を伝えるスタイルは、『ブレードランナー』が描いた人工都市の中で人間性を問いかける構図と重なります。常に最新のCG/VR/AR技術を用いた演出。未来都市の表象は単なる想像ではなく、想像してた未来を現実的に(仮想的にも)体験できるようになりました。
重要なのは、これらの音楽が単なる空想の産物ではなく、土地と時代の産物であるという点です。以前 佐野元春、桑田佳祐、桜井和寿の音楽を彼らの出身地に近いところで聴くとドンピシャにハマるコラムを掲載しました。アーティストが生まれ育った街の情景は、そのアーティストの作品に色濃く反映されると言う内容でした。
TM NETWORKやCAPSULEやPerfumeは出身地ではなく、TOKYO=未来都市で聴くとドンピシャにハマります。TM NETWORKの音楽は、80年代の東京が持っていた経済的高揚感と未来への期待を背景に成立しました。雨の歌舞伎町で聴く「GetWild 」と言えピンとくるかも。
CAPSULEは、デジタルメディアとクラブカルチャーが定着した00年代の都市環境を反映しています。渋谷の円山町で「JUMPER」がハマります。
Perfumeの活動は、グローバル都市として成熟した21世紀の東京を象徴しています。「TOKYO GIRL」にある歌詞が個人的にささってます。
たくさんのものが行き交う街で
何気なくみている風景に
何か物足りない特別な
未来を指差して求めている
そうだよな。TOKYOって「未来を夢見させてくれる場所かもしれないけど、街自体が夢見なきゃいけない役割だよな」
TM NETWORKからCAPSULE、Perfumeへと連なる流れは、日本の都市文化がどのように未来像を更新し続けてきたかを示す系譜です。音楽は娯楽であると同時に、その時代・その土地に生きる人々がどのような未来を想像した作品なのでしょう。これを機に彼らの作品を聴いてみて「未来は予測するだけではなく作り出す」。読者のみなさんがそれぞれの未来を自分で作り出す、そのきっかけになればと思います。