もうずっと聞いていたい、佐竹さんと新藤さんのお話……インタビュー記事、その③です。
高岡市万葉歴史館の田中さんの素敵な切り込みで素晴らしいお話が続きます。
(インタビュー撮影:冨田実布)
縛りとプロ

だってこの本自体がもう制約じゃないですか。タブローで、アーティストは大きいもの描けるけど、でも挿絵って大体この本のサイズ。
で、このサイズでどれだけの世界が描けるか、考えると楽しくてしょうがないです。

何かやっぱりそれがね、読者にとって、自分の知らない世界に入っていくっていうか、別世界に行く体験をするわけでしょう。それを本当に手伝ってくれてるわけだ。

うん。本当にそう思います。(ラナと竜の方舟を読むとき)何かトルコ系の話初めてだったんで、はじめ、イメージが湧かないと思って。例えばこの建物の最初の表紙のとこ、三角とか四角とか円柱とか言われてもよく分からないと思って。
そう、それをパッとこういう佐竹さんの絵があると、「あ、こうなのか」って思えますよね。あとこの丸い輪っかのある壺、あれもどんなのかなと思ってたら……

そう、それはもう新藤さんの資料。だから私も分かんないもん。

で、私ね、何か私も、あの、調べるのが好きで、何かこう、もしも本当にあったものだったら、想像で考えるよりもあるもののほうが何倍も面白いっていうか。実際にあったもの何かそうじゃないですか。
考えようと思っても思いつかないよね。色々あるから。そういうのが分かればそれは使いたいと思ってるのね。
ザクロのシチューが自由が丘で食べられる

ええ。あの冒頭に出てくる食べ物のシチューも。

ああ、でも何か色々ね。そう、調査したことがあります。

あの、トルコ料理のお店が自由が丘デパートの2階にあって、そこで食べれるみたい。(サバランというペルシャ料理の店があるそうです)あれ読んでずっと気になってて、気になってて。今度実家帰る時に何か親誘って食べに行くわって。

へえ。ああ、ザクロの。あれはね、イランの料理なんだけど。イランの料理が自由が丘にあるんですか。知らなかった。
(カメラマンのおみそさん……冨田実布さんが時間を知らせてくれる)
お二人の「無我夢中」は「フッレムシャー」

あああ……そうですよね、時間ですよね!!お話すごく楽しいので永遠に伺いたいところではありますが、そろそろということで。最後にこれだけ質問させてください。
これまでいろんなお話を伺いましたが、まだ語っていない部分でお二人が「無我夢中」なこと……これまでの人生ですごいこれに没頭したとか、これが今の人生に影響してるみたいなものがあれば教えていただけますか。

あれはやっぱりね、あの世で会いたい人がいます。

何それ!? え?

フッレムシャーね。

あー、そうそう、あのね、これ(ラナと竜の方舟)の前に「いのちの木のあるところ」っていう本を書いて佐竹さんに挿絵をもらったんですけど、あの、それがこんな分厚い本で、13世紀のトルコが舞台の歴史の話なんですよ。
で、そこに、実際にある世界遺産になってるディヴリーっていう町のモスクと、病院を作った人たちの話で、そこに昔フッレムシャーって石工の親方が彫り物をするんですよ。その門の彫刻を。それをね、実際に今あるものだから写真とかもあって、それを佐竹さんに見ながら絵を描いてもらったんですけど……この冠門の絵、これ描いてるんですよ。

え、これ佐竹さんが描いた絵なんですか?
佐竹さんが描いた冠門


そう、あの写真から。だけど写真はもっと他にも、周りもあるわけですよ、この中にも。
でもこのフッレムシャーが彫刻したと思える部分を……すごいんですよ。これ、しかもね、これ描いてくれって頼んだわけじゃないの。佐竹さんが描いてくれたの自分で。

そう、あの写真から。だけど写真はもっと他にも、周りもあるわけですよ、この中にも。
ええ。(パラパラとページをめくり)それは新藤さんがこの話で書かれている、フッレムシャーが作った王様と王妃の部分で。本来ならばもう顔がないんだけど、この頃はまだ大丈夫で……この門を掘ったフッレムシャーが顔を彫刻した部分があって、それを復元してほしいって。

そうそうそう。

結構難易度が高い。
佐竹さん、フッレムシャーの癖を掴む


ええ。これこれ。これがね、こういう彫刻なんですよ。だけど、今この門は残ってるんだけど、この顔はないの。ちょっと髪とか顎とかぐらいはあるけど、目とか鼻とかはもう崩れちゃってるのね。
後世のすごい熱心なイスラム教徒の人たちが、偶像はダメだからっていうんで、顔に見えるとこだけ削っちゃったの。それでもう顔は残ってないんだけど、その写真を見て、写真からこれをルーペでね、何かこう凹凸感とか……ここ、三つ編みが編んであったとかさ。

ここもね、あんまりはっきりしてないんだけど。何か見えてきて。何か、棟方志功のようにね、こう近くまで寄って……拡大鏡でこう見たら、このね、髪とこう髭の跡が分かったんです。

そう。で、その現地の資料で、現地の人が想像で描いた絵があって、それは正面向いてるんですよ、王と王妃の2人が。でも、佐竹さんは絶対違うと。
絶対凹凸からして横向いてる。2人は向き合ってるんだ。目線があってるんだ。ちょうどこれじゃないけど、あの、こっちとこっちにあるみたいな感じだからっていうのをね、描いてくれたのね。

いや、だからこれを描いてほしいって言われた時に、フッレムシャーがどういう掘り方をしているか分からないと顔も想像できないと思い、徹底的に写真をトレースしました。
光を当てた写真集があって、それを何度もトレースして、自分の中でフッレムシャーの癖を掴み、「ここはフッレムシャーがやったけどここは違う」と分かるようになりました。

ええええええ!!
フッレムシャーに確かめたい

で、向こうの建築関係者は一生懸命資料を読んで、「この部分はフッレムシャーだがここは違う」と書いているんですが、佐竹さんが同じことを言うので、すごいなと思いました。

そうするうちに、フッレムシャーの彫りが好きになって、植物を愛する人なんだなあっていうことも感じるんです。
で、顔を復元したので、私が死んだ時にはフッレムシャーに会って、「あの顔で良かったでしょうか」と聞きたいです。確かめたいので、向こうに行くのが楽しみで仕方ありません。

フッレムシャーっていう人も名前しか分からない人なんです。だから本当にその人が彫ったのかどうなのかも分かんないんです。だけど、向こうの第一人者の建築・美術史家の先生たちが、ここはフッレムシャーがやったと言ってるわけだけど……そこだけに名前を残してアフラトという町出身のフッレムシャーという情報だけしかわからない。
どういう人生を送ったかとかが分からない人なんだけど、それを私は書いたんですね。書くのにかなり調べて、分からないところは想像しました。私もすごいのめり込んで作ったと思います。

そうでなければ作れないよね。

佐竹さんものめり込んでくれたことが嬉しくて……二人とも異常でした。
笑ったのは佐竹さんがそれを描いて、描いたからどこかで使えたら使ってみたいに言ってくれるのね。
「これ描いたの?」って聞いたら写真を拡大コピーして、台所に貼ってビールを飲みながら見ていたそうで。

そうそう……B2かな。

ええ!なにそれ見せて〜って。
フッレムシャーにのめり込むお二人


ああ、まだ自分はこんなにのめり込めるんだと本当に思ったんです。

私もそれ書いている間、他の何冊か出したぐらいなんですけど、8年ぐらいかかりました。それだけやってたわけではありませんが、調べる時間、書く時間以外にも時間かかりました。その間に色々なことがあったんですよね。結構自分の中では集大成だったかなと思います。
それに佐竹さんが感応してくれたことが嬉しいです。フッレムシャー、トルコの建築関係者も調べている人はみんなフッレムシャーが好きなんです。フッレムシャーラブみたいな感じで、みんなのめり込んでいくっていうか。みんな熱を持って語ってくれるんですよね。

フッレムシャーの植物って動いて見えます。動いて入り口に向かって葉っぱがね、こう、人を誘うんですよ。

なんか立体的なの。平面的じゃなくて。

楽しみです。今ここまで読んでてまだ途中なんですが。

ネタバレしてしまいましたね。

いえいえ。

なので、のめり込んでいるものとしては最近ではフッレムシャーです。

ですね。自分自身でものめり込んだのと、作る時に私はそれまでは、本を書いたら編集者に任せる感じでした。絵や装丁には私はほとんど関わってこなかったんですね。
でもこの時初めて、最初の打ち合わせから装丁の人と4人で打ち合わせに参加させてもらって、紙を決める所から見せてもらって。一冊本を作るのにこういうことをしているんだと初めて見たのがこの本だったんですよ。
それまでは原稿を渡したら終わりでした。だからすごい面白かったです。

本って知れば知るほど、のめり込むものだなと思いました。

佐竹さんからのお言葉だと深みが違いますね……。佐竹さん、新藤さん、貴重なお話をたくさんありがとうございました!
まとめ 素晴らしい作品は素晴らしい心によって生まれる
このインタビューの直後にほりたみわが「いのちの木のあるところ」を買ったのは言うまでもありません。
お二人のお話を伺えば伺うほど、フッレムシャーに限らず、あらゆる対象への向き合い方や、熱意……というより愛をひしひしと感じることができました!
だからこそ、お二人の作品はとても輝いているんだなあと。
構図や手の表情、骨から描くお話だったり、ご自身で作られた素敵な竜のこと、フッレムシャーにのめり込んでいること……「その道」を極めている佐竹さんならではのお話がたくさん伺えて、わたくしほりたみわもイラストレーターとしての在り方を深めることができた大変貴重な時間となりました!
新藤さんの柔軟さ、言葉一つ一つから滲み出るやさしさ、世界の見え方、感じ方もとても心に沁みました。わたくしもやさしい言葉を紡いでいける人間になりたいと思いました。
こんな素晴らしいお二人の息があった作品を読まずにはいられません。こんな世界があることを知ることができたわたくしは本当に幸せ者です!!本当にありがとうございました!
素晴らしい機会をつくってくださった、高岡市万葉歴史館の田中さん、あらためてありがとうございました!
佐竹さんにお会い出来るチャンス!!
こちらの記事に追記しましたが、佐竹さんのサイン会、残すところ最終日だけではなく、その前日も在廊してくださることになったそうです!(歓喜)
【佐竹美保さんが会場にいらっしゃる日】最終日2日間:3月22日(土)、3月23日(日)終日(予定)
原画展の最終日2日間に、佐竹美保さんが在廊されることになりました。
下記の時間内で、本をお持ちの方には佐竹さんにサインしていただけます。(※申込不要)
場所:富山市ガラス美術館(TOYAMAキラリ)5階ギャラリー1・2
日時:原画展の最終日2日間の下記時間(予定)
3月22日(土)10:00-12:00、13:00-18:00
3月23日(日)10:00-12:00、13:00-18:00
詳細は富山市立図書館の公式サイトをご確認ください。
高岡市万葉歴史館で佐竹さんの「ゆきおんな」原画展示

インタビューで少しだけ触れた「ゆきおんな」の原画の展示があります!!
インタビュー記事内ではだいぶ遠慮して書いておりましたが、情報解禁したので言わせてください。
「原画、めちゃくちゃ『ゆきおんな』でした!!!」
雪を体験していた佐竹さんだからこその雪の表現が本当にすごいのでぜひ原画を見に来てください!絵本で見るより「ゆきおんな」の世界に没入できます。語彙力吹っ飛びます。
特別企画展「小泉八雲と万葉集」
場所:高岡市万葉歴史館
期間:令和7年9月18日(木)〜12月1日(月)
何か、縛りが好きなんだよね佐竹さんって。何か縛りがあればあるほど。
絵を描く時も、色々言ってくださった方が良いって言われて、ええ!って、逆にびっくりしちゃって。
で、その後、星座の絵本を挿絵を描いてらっしゃる時にお話しした、「やっぱり星座にこの人間とかそういうのを加えるのがすごい大変だけど、その縛りが気持ちいい」みたいな。
だからその設定が細かくになればなるほど、それがまた絵につぎ込まれるから描きやすいみたい。逆に何もないとどう描いたらいいか分かんないっていうのを感じて、ああ、なんてプロなんだろうと思って。