はるじの四十九日法要の日。たまたまじゅんの家族が最後の頃まで残っていて話をしていた時に、おみそさん(密着してくれてずっと助けてくれていたプロカメラマン)とじゅんの3人で登山に行こうって話になった。
じゅんの「ハゲ山ならいいよっていうか行きたい」という返事でハゲ山登山が決定。じゅんの空いてる日を聞いたら8月5日だったら大丈夫ということで、8月5日ハゲ山登山が秒で確定した。
8月5日、ニッカ地下足袋登山部の部員でもあるおみそさんはなんだかよくわからない理由(忘れた)で、まさかの一緒に登山しないことに。
当時はまだ部員ですらなかったじゅんとの二人登山部になってしまった。
部長のはるじがいなくなってしまった「ニッカ地下足袋登山部」。はるじのいとこ、じゅんに部長のニッカを無理矢理履かせての登山。
じゅんとビールとはるじ
これでなんとなく入部したようなさせたような感を漂わせながら、じゅんの後ろを歩く。
じゅんのうしろ姿を見ていればはるじと一緒に登山している気持ちになれるかと思いきや、じゅんの歩く姿ははるじとは違いすぎてはるじのいない寂しさを思い知るだけだった。
さらに山頂でビールを飲むじゅんを眺めながら、神聖なお山でビールを飲むなんて……となんとも言えない気持ちに。
でも、そこでふと思い出したのは、いつだかはるじもお友達と登山した時に嬉しそうに飲んでた山頂でのビール。
あぁ、はるじもじゅんも嬉しそうにビールを飲むなあなんて、急にやさしい気持ちになれた。人間の記憶と思いのなんといい加減なことか。
山頂で出会ったトレランの女性二人はハゲ山の山頂にハゲがいると喜び、じゅんと笑顔で写真を撮っていた。
じゅんの笑顔はいつもとてもすてき。
見ている人たちもしあわせになれる笑顔だなあなんて思いながら、女性とじゅんのやりとりを眺めていた。
ハゲ山に行った8月5日ははるじの四十九日。そして後日気づいたんだけど、ハゲ山はまさかのはるじと「元気になって今度行こうね」って言っていた山だった。
はるじが連れて行ってくれたんだろうし、はるじとの約束も守れたような気がした。
笑顔は笑顔を生む
下山してからは近くの温泉で汗を流し、帰宅前に喫茶店でお茶。
じゅんは「お茶をする」という文化がなかったらしく、お茶をしようという提案に戸惑いながらも応じてくれた。
お茶をしている時に普段撮りためている「壁写真」をじゅんに自慢していたら、壁の素材について聞かれた。
普段そんなこと考えながら撮ったことがなかったことを告げたら、「じゃあ今からその壁を見に行こう」って話に。
これまではるじといろんなところに行って撮った壁写真。気になるところがあったらいつでも車を停めたり、なんなら引き返してくれたりも。
はるじとの壁探しの日々もすごく楽しかったけど、じゅんはまさかの斜め上をいく人だった。
じゅんは感性豊かで、壁の素材やその壁の美しいポイントについて一緒に話し合ってくれた。今までこんなに壁について語り合える人なんていなかったから嬉しかったし、びっくりもした。
はるじがいない寂しさをじゅんの笑顔でまぎらわせるつもりはなかった。
でもじゅんと一緒にいたらいっぱい笑ってることに気がついた。
ハゲ山登山の1週間ほど前。
みんなを明るい気持ちにさせてくれる、おひさまのようなじゅんの笑顔が消えたのは、じゅん自身の話をし始めた時だった。(つづく)