前回のコラムで「艶気(いろけ)」について書きました。
沢田研二-大澤誉志幸-吉川晃司 をプロデュースしていた木崎氏が編んでいた縦糸と横糸。先人の縦糸と時代の横糸で編まれた「艶気」は日本の70年代から90年代のロックシーンを大きく広げ、「大きな敷物」になりました。
それまでにはメジャーシーンでは男性が化粧してテレビに出演するということはごく稀で、2025年の今では考えられないことかもしれませんが、当時は「男が化粧するなんて不適切だ!」という空気感は確かにありました。
80年後半以降のアーティストやミュージシャンはその「大きな敷物の」上に集まり、先人の編み目を丁寧に追いかけながら、表現方法に影響を受けながら影響を受け自分の模様を紡いでいったのです
「大きな敷物」の上には沢田研二や大沢誉志幸はもちろん、RCサクセションの忌野清志郎だったり、佐野元春だったり、そしてBOØWYだったりします。BOØWY氷室京介がまだ「氷室京介」と名乗る前のころ。デビューしたはいいけど全然売れずにいて心折れて故郷に帰ろうとした際にRCサクセションのライブを見て、もう1回頑張ろうとした話は有名な話で、その直後に結成されたのがBOØWYだったりします。
そしてその「大きな敷物」に座っている吉川晃司の隣にはBOØWYの布袋寅泰がすぐそばに居たり、吉川晃司のCOMPLEX結成前のソロの最後のアルバムは忌野清志郎が曲を提供していたりと、そんな時代が80年後半から90年にかけての音楽シーンだったんじゃないかなと思います。
そして「大きな敷物」に座っていたバンドが居ます。つながりは氷室京介。80年代後半にデビュー。
それがBUCK-TICK。
櫻井敦司がまだアマチュア時代に、群馬高崎のバンドのイベントに同郷のバンドの先輩であるBOØWYがゲスト出演。その打ち上げで氷室京介氏と初めて会ったそうですが。そこで氷室京介が櫻井敦司に一言。
「ツラ(顔)がいいからドラムじゃなくてボーカルやったほうがいいよ」
そうそこが、(編み目)。間違えたら大変な場所ね。
そしてメジャーデビュー。このビジュアルは覚えている人も多いでしょう。
氷室京介も(編み目)見えてて、かつボーカルの重要さを知ってたんだと思うし、BUCK-TICKのバンドの方向性を何となく予知出来てたんじゃないかなぁ。演奏者の良さを引き出しつつ、縦糸と横糸を編んでいくプロデューサーの視点。
氷室京介は、その後BUCK-TICKのプロデューサーになることなく、地元の先輩としての心の拠り所としてバクチクのメンバーと接してたようで、直接編まないけど、将来的な模様のイメージはBUCK-TICKメンバーに伝えてたんじゃないかなあ。
メジャーデビューからメンバーチェンジ無し。
さてバクチクは、1987年にデビューしてから最新作(2024年)まで発表したアルバムが、必ずランクの15位以内に入ってるという「超」売れて売れ続けてるバンド。そしてアルバム毎に毎回鮮やかな編み目の模様を奏でるバンドです。
1991年アルバム 狂った太陽。彼らしか織れなかった作品。「デジタルでインダストリアルでテクノでノイジーでメロディアスでアンビエントでダークなディープな」サウンド。平成3年 1991年の日本レコード大賞受賞作品。34年前かよ!
1994年シェイプレス。それまでの作品をアンビエントにリミックス。DJ AKKYテクノナイトではこっそり廻してたりします。
ギターの今井寿は、聴いたことがない実験的なギターサウンド。そのサウンドは3秒聴いたらBUCK-TICKとわかるサウンド。それは繰り返しますが「デジタルでインダストリアルでテクノでノイジーでメロディアスでアンビエントでダークなディープな」サウンド。
ロックバンドなのにテクノのインスト曲(歌詞がない曲)作ったり、
かと思えば、サンバ調の曲作ったり、歌詞を朗読するだけの曲作ったりと。
それを支えるように星野英彦の超堅実なギターが絡み、リズム隊(ドラムとベース)が実の兄弟とか息合いすぎ。そしてボーカルの櫻井敦司の妖艶な声と歌の表現力。
めちゃくちゃわかりやすく言えば90年初頭はCOMPLEXもB’Zも「打ち込み」と「ロックギター」の融合であるデジタルなロックを目指していたんだけど、トータルの美学としてCOMPLEXもB’Zも当時たどり着けなかった世界に彼らは5人で編んだ「大きな敷物」たとえるなら「魔法のじゅうたん」でヒラリとサラッと辿り着いています。
1998年のシングル「月世界」には、布袋寅泰REMIXの「無知の涙 HOT remix #001 for B-T」が収録。ほぼ同時期の布袋寅泰作品である”SUPER SONIC GENERATION”の音作りとかなり近いし、たぶん布袋寅泰がやりたかったCOMPLEX3枚目ってこんな感じなんだじゃないかと思う
2023年10月19日。それまでの作品を軽く凌駕するクオリティ。アルバム「異空」の発売後
ファンクラブ会員限定のライブ『FISH TANKER’S ONLY 2023』開催時にそれは起きました。
開始3曲目で櫻井敦司が倒れ、帰らぬ人になりました。脳幹出血。あまりに衝撃的すぎる。ニュースで見た際に呆然としました。享年57歳。
それでもバクチクは解散する事なく、止まる事無く作品を発表。
2024年の11月に発表された最新作は「待ってました」「おかえり」「想像以上の出来」という立ち上がって拍手モノ。残された4人でのバクチクをまた織って欲しいなと思っています
最後に
艶気は誰かに編んでもらう。またはバンドで編む。自分で自分で編んでいくと様々かもしれません。
皆さんも誰に影響を受けたか。どのアルバムに夢中になったか。そのアルバムは誰が作ったのか。という縦軸と
同時期にどんな作品やアルバムが出ているのか。その影響はどんな形になっているのか横軸も推理しながら聴いてみてください。
音楽だけではなく、写真や絵画なども同じことが言えると思います。写真の光と影。絵画の筆の運び具合。色使い。彫り物であればなぜこの大きさなのか。目の前に見えるモノだけではなく、見えないもの聴こえないものが「艶気」を編むには大事なのかもしれません。